医師が選んだ医事紛争事例(2)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(2)

総胆管を誤って切離その後に法外な賠償請求

(40歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 胆石胆嚢炎に対して胆嚢炎治療後、腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。その際、炎症による癒着が強く内視鏡的剥離操作に手間取った。胆嚢管の分岐部が比較的肝門部に近く、胆嚢管を確実に同定する為にCalotの三角を確認しようとしたが、肝門部の剥離が十分にできず総胆管を切離してしまった。すぐそれに気づき開腹術に移行して、胆管造影で総胆管誤認切離を改めて確認した後に胆管空腸吻合(ルーワイ吻合)で再建した。なお、手術は約4時間を要した。当該医師は卒後8年で手術には他に卒後3年、12年の医師がいた。医療機関では胆嚢症の手術を1年に40〜50件ほど施行している。患者は一旦退院したが、同日、腹痛で再度入院となり経過観察とした。

 患者側は当面は治療を優先することを希望したが、休業補償等、賠償請求も行ってきた。また、カルテ開示と術中のDVDを要求した。

 医療機関側としては、腹腔鏡下胆嚢摘出術で最も注意しなければならない総胆管を誤認して切離してしまったことは、手技上というよりも手術の手順が踏めていなかったとして、明らかな医療過誤と判断した。また、患者側の要求通り、カルテ等の情報開示は実行した。事故後は、(1)治療を最優先し患者の回復に努める(2)原因の究明と再発防止(3)誠意ある賠償—を基本方針としてチームを発足させた。

 紛争発生から解決まで約2年6カ月間を要した。

〈問題点〉

 患者の癒着が強かったことは明らかであったが、医療機関の主張通り、腹腔鏡下胆嚢摘出術で最も注意しなければならない総胆管を誤認して切離してしまったことは、過誤と判断せざるを得ない。癒着が強固な時ほど、より注意すべきであり、癒着が強いことが分かった段階で開腹術に移行すべきで、仮に事故が発生していなくても開腹はせざるを得なかったと思われる。医療機関も患者の癒着の程度からもっと早く開腹すべきだったと判断した。しかしながら、患者側が法外な賠償金を請求してきたので、やむを得ず医療機関側から裁判所に債務額確定調停を申し立てたが、不調に終わり裁判となった。医事紛争は一般的にいって、まず医療過誤の有無が問題となるが、医療過誤が認められたからといって、患者側の請求額を必ずしも承諾する必要はない。また、裁判において患者の請求額が満額認められるケースは、ほとんどないといってよいだろう。患者側(弁護士)の請求にも疑問が持たれるケースであった。

〈解決方法〉

 明らかな医療過誤が存在したので、当然ながら患者側の勝訴に終わったが、判決額は訴額の30分の1であった。

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