医師が選んだ医事紛争事例(10)  PDF

医師が選んだ医事紛争事例(10)

リスパダールRの過剰投与でパーキンソン症候群 ?

(50歳代後半女性)
〈事故の概要と経過〉
 精神神経科を初診して「妄想性障害」と診断され、リスパダールR等を処方。リスパダールRは当初2mgの処方であったが、効果が認められないために、徐々に6mgの投与として処方継続していた。その後、患者は身体が動きがたいとのことで連続3日間、救急車にて受診した。患者が1カ月前から身体の動きに変調をきたしたと述べて、その旨の看護記録の記載もあるが、医師には伝わっていなかった。患者は救急受診直後に入院となった。その後、リスパダールRの副作用であるパーキンソン症候群の発症と診断の上、薬剤を変更した後に退院となった。その後は通院となり、パーキンソン症候群は消失した。
 患者側は、他の医療機関において、過換気症候群の治療を受け改善していたにもかかわらず、当該医療機関に転院してから症状が悪化した。その原因はリスパダールRの過剰投与であり、パーキンソン症候群になったために、仕事や家事ができず、生活に困るようになったとして調停を申し立て、その後訴訟となった。
 医療機関側としては、リスパダールRの投与とパーキンソン症候群の因果関係は認めるが、患者に対する「妄想性障害」の診断に誤りはなく、リスパダールRの適応・処方量にも問題はない。なお、能書には12mgまで投与可能とされている。副作用に関しても予見しており、副作用を抑える薬剤も投与していた。更に副作用発症後の事後処置も、リスパダールR投与を中止する等、診療は適切であったと主張した。
 紛争発生から解決まで約2年間要した。
〈問題点〉
 以下の問題点が指摘されたが、いずれも賠償責任を問う程のものではないと判断された。
 (1)患者が受診時に1カ月前から身体の不調があったと訴えていた事実があるが、医師は気づかなかった。医師は患者に対して積極的に体調について具体的に質問して、患者の変調に対応すべきではなかったか。 
 (2)カルテ上は退院に納得しているが、本意ではなかった様子が窺われた。退院が時期尚早で、療養指導が十分でなかった可能性も否定できない。
 (3)リスパダールRをはじめ、カルテには患者への説明が十分に記載されていない様子が窺えたが、説明違反まで問責できるか否か争点となりえる。
 なお、医療過誤の有無は別として、患者がパーキンソン症候群になったのは、患者の身体的素因も大きいことが推定された。
〈顛末〉
 調停が不調となった後に、患者側が訴訟を申し立てたが、医療機関側の勝訴となった。患者は敗訴を不服として控訴したが、第2審も医療機関側の勝訴となり、医療機関側の過誤はないとの判断が証明された。

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