医の倫理取組の呼びかけ 次の世代へ伝えるため今こそ過去の過ちと向き合い検証を
協会などは2015年に開催される「第29回日本医学会総会2015関西」の開催を契機に、広く医の倫理について議論する気運を高めようと、医の倫理—過去・現在・未来—企画実行委員会〜日本医学会総会2015関西にむけて〜を結成した(第2883号既報)。以下、結成にあたっての趣意書を全文掲載する。なお、実行委員会への参加は関西圏を中心に広く全国一円に呼びかけており、現在、実行委員が39人、賛同が28人となっている(4月14日現在)。
設立趣意書2014年1月12日 代表 垣田さち子
「第29回日本医学会総会2015関西」が京都を中心に開かれます。
「医学と医療の革新を目指して—健康社会を共に生きるきずなの構築—」をテーマに掲げ、井村会頭は「医療、健康の問題は、医療関係者だけでなく、国民全体、社会全体で考えて行く」ことが大切だとして、医療関係者のためだけではなく、国民に開かれた医学会になるべきとの思いを述べられています。
2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学の山中伸弥教授も、「iPS細胞の研究は驚くべきスピードで進んでいるが、良いことばかりではなく新しい問題も発生している。新しい科学技術には倫理問題も伴う。何をどこまで受け入れるのか、答えを出すのは社会です」と指摘されています。
人間の細胞から精子や卵子が作られ、豚の体内で人間の臓器を作ることも可能になる一方で、胚や胎児の段階から出生の取捨選択が可能になるなど、生命そのものを操作、選択できる時代となった今、医学・医療に求められている倫理的課題は格段に重さを増しています。「医の倫理」が、広く社会全体で理解され共有され議論されなければならない時を迎えているのです。
しかしその一方、残念ながら日本の医学界・医療界において「医の倫理」について然るべき十分な議論が行われた実績はありません。特に、忘れてならないのは、「731部隊」に代表される戦前の日本の医学者・医師が行った、非人道的な行為に対する考察と反省ですが、日本医師会も問題意識は持ちつつも議論を深めるまでには至っておらず、取り組みはこれからと言わざるをえません。
全ての生命を尊重するはずの医学・医療が陥った当時の過ちについては、医の倫理に関わる原点の問題として捉え、事実を検証し、深く学び合うことから始めねばなりません。避けることなく過去に向き合い、先人が犯した間違いを再び繰り返さぬよう、次の世代に正しく真実を伝えていくことが大切です。
来年は戦後70年目の年となりますが、繰り返される薬害や臨床データの改ざんなど、日本の医学界・医療界全体のあり方に対しては、依然として厳しい批判の目が向けられています。
人種、性別、年齢、思想信条、貧富などによる差別をしない、人権が守られる医療を確立するためには、まず私たちが過去の過ちを今日の問題として認識を深め、社会に対する責任を改めて問い直し、その教訓を未来への贈り物としなければなりません。
日本の医学界・医療界としてこの問題に前向きに取り組んで行くために、できることを考え行動しようとの趣旨で、有志による実行委員会を設立しました。これから「日本医学会総会2015関西」にむけて、市民、医学者・医師が幅広く集える機会を作りたいと思います。趣旨にご賛同いただける皆様のご協力とご参加を、心より期待いたします。