入院患者の他医受診制限は撤廃を 保団連 病院・有床診療所セミナーを開催  PDF

入院患者の他医受診制限は撤廃を 保団連 病院・有床診療所セミナーを開催

 保団連は8月28・29の両日、今年で第28回目となる病院・有床診療所セミナーを新宿農協会館で開催、全国から88人が参加した。山形大学の村上正泰氏による講演、京都協会の林理事による医療安全講習会のほか、「入院中の患者さんの他医療機関受診の規制の撤回を求める決起集会」も行われた。

次期改定への取組決意

 保団連病院有床診対策部会部長の安藤元博氏から行われた基調提案では、政権交代が行われ、10年4月の診療報酬改定では0・19%引き上げが行われたが、開業医や中小病院にとっては実質マイナス改定になっている。入院中の他医療機関受診の制限も隠れた引き下げになっていると指摘した。病院有床診対策部会では、介護療養病床廃止撤回への取組み、入院中の患者の他院受診の改善、有床診療所に係る宣伝活動と診療報酬改善の実現に向けた取組みなどを行っていくと同時に、保団連全体として、患者負担軽減、後期高齢者医療制度、介護保険法改定、診療報酬・介護報酬同時改定に対する取組みも行っていくとの決意が述べられた。

元官僚の村上氏が講演

 講演「『医療崩壊』の原因と今後の医療再生に向けた課題」では、元財務官僚でもある村上正泰氏(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)が、社会保障費の財源論に触れ、消費税だけを社会保障の財源にすることは、消費税の収入の伸びに社会保障費を合わせるということになってしまい、消費税の収入が伸びなければ、社会保障費を抑制しなければならないという仕組みを生み出すことになり危険、と警鐘を鳴らした。

 また、医療のあり方は、医療の中のみで議論するのではなく、地域社会や家族、住環境のあり方や、死生観をめぐる問題も含め、医療の枠を超えて本質的に議論すべき課題であるなどと講演した。

分科会で林理事が講演

 病院分科会では、京都協会の林一資理事が、「医療安全研修会(医事紛争予防と対応)」と題して講演。京都における「医師賠償責任保険処理室会」のシステムが紹介された後、内視鏡や腹腔鏡に関する具体的な事例と判例を解説。京都の医療安全対策の経験が幅広く紹介された。

 有床診療所分科会では、日医総研主席研究員の江口成美氏より「地域を支える有床診療所―新しい時代に向けて―」と題した講演が行われた。この中で江口氏は、病院医療への手当は進みつつあるが、国民に最も身近なプライマリ・ケアへの対応が抜けている。高齢化が進み、死亡数も増加している。医療と介護双方のニーズを持つ患者が増加し、日常生活圏で受けられる医療・介護が求められてきていると指摘。貴重な医療資源である有床診療所の14万床を有効に活用すべきであると述べた。当該講演を受けて、今後保団連で作成予定の有床診療所パンフレット(素案)の検討も行った。

決起集会で規制撤回を決議

 また、「入院中の患者さんの他医療機関受診の規制の撤回を求める決起集会」では、安藤部長が入院中の他医療機関受診の制度の現状と、外来での算定制限や入院料の減算規定など残存する問題点を指摘。今後も患者団体や医療団体、マスコミ、国会議員などに、その解決の必要性を訴えていくと述べた。

 日本難病・疾病団体協議会の坂本秀夫常任理事からは、病気の治療に制限を設けることなく、どこでも最先端の医療を受けたい―などと連帯挨拶が行われた。他にも、26人に上る衆参国会議員や、患者・医療団体から、他医療機関受診制限、介護療養病床廃止撤回に対する賛同書、メッセージも寄せられた。

 フロアからは、入院中の他医療機関受診に対する規制について「『合議』で精算するとされていることが気がかりである。相互の不信感を招き、連携に支障を来たしたくない」「透析で病院に入院中の患者のリハビリ通院が激減し、心配している」などの発言があり、危惧される問題や、現実化している弊害が生々しく語られた。

 さらに「入院中の患者さんの他医療機関受診の規制の撤回を求める決議」「介護療養病床廃止を撤回し必要な医療と介護が提供できるよう、診療報酬、介護報酬の引き上げを求める決議」を採択した。

鈴木副理事長がアンケート結果を報告

 保団連病院・有床診対策部会部員でもある京都協会の鈴木卓副理事長からは、近畿2府4県にある、精神病床を中心に持つ病院を対象にした、他医療機関受診の必要性及び入院料の減算規定に係る緊急アンケート調査結果が報告された。

 精神科入院中で透析治療が必要な患者で、月のおよそ半数の入院料が減算。医療機関が経営的にも非常に困難な状況にさらされている具体例も提示し、調査からは、入院中の他医療機関受診は必要なケースが非常に多いこと。入院料30%減算規定はその根拠が不明なこと。70%減算は、その額が外来診療費の実態額に相応していないこと―が明らかになったと鈴木氏は報告。入院中の他医療機関受診については、制限を加えることなく認めるべきであり、根拠なき減算規定は即刻撤廃されるべきと訴えた。

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