健康調査要望、国が放置/60年前の京都ジフテリア予防接種禍
京都市で60年前、ジフテリアの予防接種を受けた乳幼児68人が死亡した「京都ジフテリア予防接種禍事件」で、2007年春に後遺症の健康調査を国に要望した被害者グループに対し、国は1年半たった現在まで回答せず、事実上放置していることが、11月3日に分かった。戦後の「薬害第一号」とされる事件の被害者の中には、今も後遺症の疑いのある手足のまひなどに苦しむ人もおり、国に誠意ある対応を求めている。
また、国側が事件の翌年、敗訴が濃厚な民事裁判を回避するために「相当額の慰謝料を支払い、訴訟提起を防ぐのが得策」とする内部文書を作成していたことも、被害者グループの調査で判明した。被害者側は「責任をうやむやにする国の体質は今も昔も変わらない。後遺症に悩む人は多いはず。高齢化が進む前にきちんと診察してほしい」と訴えている。
予防接種の実施主体の京都市が事件の23年後に実施した被害者アンケートでは、回答者221人の約4割が、手足のまひなど何らかの異常があると答えた。しかし、医師による診断などは行われなかった。
厚労省は「古い事件で詳細が分からず、何ができるのか精査している。健康調査は京都市などの協力がないと困難」としている。ただ、まだ調査を含めて市とは対応を協議していない。
一方、国の内部文書は、法務庁(当時) が1949年2月に厚生省次官(同) にあてた意見書で「(国家賠償訴訟が起きれば) 国が勝訴する見込みは薄い。相当額の慰謝料を払い、これ以上の慰謝料請求の権利を放棄させ、訴訟提起を防ぐのが得策」と記されている。
予防接種を進めた国、京都府、京都市は同年、被害者に慰謝料などの補償金を払って和解した。民事裁判は起こされなかった。
【京都ジフテリア予防接種禍事件】
1948年11月4・5日にジフテリアの予防注射を受けた京都市の乳幼児606人が発症し、うち68人が死亡した。同時期に島根県でも16人が死亡した。ワクチンにジフテリア毒素が残存していたのが原因。国がワクチンを抜き取り検査したが、有毒ワクチンはすり抜けていた。大阪市のメーカーの所長らが禁固刑を受けた。