健全な医業経営は適切な雇用管理から 桂好志郎氏を講師に講習会開く
09年度の1年間に、労働基準監督署が労働基準法違反等で是正勧告を行った医療保健業の事業場数は1216件あり、定期監督を受けた事業場数1475件に占める割合が8割を超えている。サービス残業について是正指導を受ければ、不払いとなっている割増賃金の支払いが、過去2年分さかのぼって生じるため、医療機関にとっては経営問題となる。適切な雇用管理を行うことが健全な医業経営のために重要となっている。
協会は12月9日、保団連発行の『医院経営と雇用管理』(月刊保団連2010年10月21日号)をテキストにして雇用管理講習会「知っておきたい医院の雇用管理の基礎知識」を開催した。講師は監修者の桂好志郎社会保険労務士が務めた。参加者は37人、協賛は有限会社アミス。講習内容の概要は以下の通り。
保団連テキストは、労働法関係では現状、トップ水準のものとなっている。労働条件通知書の書き方サンプルや就業規則のたたき台、退職金の参考支給率などを、会員からの要望にこたえる形で盛り込んでいるので、大いに活用していただきたいとテキスト構成の解説からスタートした。
労働法制をめぐる情勢では、労働契約法という民事的なルールを定めた新しい法律ができた。また、2年前にパート労働法も改正されている。労使間でトラブルが起こると労働契約法によって判断されるので、労働契約法をきちんと理解しておくことが使用者として求められる。現代は、雇用形態が様々になり、職員との信頼関係も築きにくくなっていることを認識しておく必要がある。
労基法は、直接には憲法27条第2項に基づいているが、その元となるのは憲法25条第1項「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という規定である。労基法は、国と使用者の関係を定めているのであり、国が使用者に労働者との関係で種々の義務付けを定めている。
労基法が遵守されるために、労働基準監督官が置かれている。監督の対象は、以前は労働災害が中心であったが、今は労働条件の確保、特に割増賃金が適正に支払われているかが中心になっている。
監督官が現場を回るのは限界があるので、小規模事業所に対してアンケートや呼出監督を実施している。このアンケートに対して不誠実な対応をすると、適切な労働条件確保がされていないと判断されることがあり、労基署に呼び出されることもあるので注意喚起した。
このような労働行政の背景を踏まえて、労働契約法が使用者に求めるポイントは、(1)使用者と労働者の合意の原則、(2)労働条件の変更の合理性、(3)就業規則の周知、(4)権利を乱用してはいけない―の4点。
ここで注意が必要となるのは、使用者と労働者の合意が成立していても、労基法は労働者の実態で判断するので、労基法から逸脱した労働条件は認めないことである。これらの背景を踏まえ、具体的に、労働時間管理、割増賃金の算出の方法、休日の与え方などについて解説した。