個別指導対象を「不適切請求疑い」誤解与える朝日新聞記事に抗議  PDF

個別指導対象を「不適切請求疑い」誤解与える朝日新聞記事に抗議

 朝日新聞は5月11日の1、2面で、「医療費不適切請求疑いの8000医療機関/厚労省、半数を放置」との記事を掲載した。「厚生労働省が毎年、診療報酬を不適切に請求した疑いがあるとして調査対象に選んでいる全国約8000の医療機関のうち、実際には半数程度しか調査せず、残りは放置している」「年40兆円超の税や保険料などが投入される医療費について、行政のチェックは極めてずさんだ」等と報じた。協会は5月27日、理事会名の抗議文を朝日新聞社に送付。全面的な撤回と懇談を求めた。(4面に抗議文全文、2面に関連記事)

 この記事に対しては、全国保険医団体連合会も5月18日の理事会で「保険医療機関への指導、監査に関わる正確・公正な報道を求める声明」を決議し、報道機関に要請した。

 日本医師会も5月21日に記者会見し、抗議文を発表。「国民に誤った認識を与えるもので、到底容認することはできない」等と強く抗議した。

不利益処分前提の質問・検査と混同する誤り

 この記事の問題点は大きく3点ある。

 一つめに、選定対象の「半数」を、厚労省が「放置している」と言い切っていることだ。

 8000という数字自体が、「経済財政改革の基本方針2007」の中で、柳澤厚労大臣が「個別指導の数は毎年8000カ所を目指す」と数値目標を上げたことに始まっているが、医療費抑制を狙って当時の件数の約3倍の数値を掲げただけであり、根拠のない数字だ。必ず指導しなければならない根拠はない。

 二つめに、個別指導と質問・検査を混同したことだ。

 個別指導は行政指導であり、不利益処分を前提とした監査(質問・検査)ではない。これは根拠条文が健保法73条と78条に分かれていることからも明らかだ。

 しかし記事は、個別指導をわざわざ「調査」と言い換えている。現在の個別指導でも、行政側のカルテや帳票類の閲覧が行われる等、質問・検査の手法が持ち込まれ、しばしば監査のような指導が行われているという問題が指摘されているが、本来、指導と監査は峻別されなければならない。記事は、これを意識的に混同した揚句に、「刑事事件で立件されることもほとんどなく」とまで記述して、読者に強い疑念を植え付けた。これは、非常に問題だ。

高点数医療機関を過剰診療疑いと決めつけ

 三つめに、全ての選定対象を「不適切請求疑い」と決めつけたことだ。

 記事は「(1)不正請求の情報がある(2)前年に指導したが、改善が求められない(3)患者一人あたりの請求書が高額で過剰診療の疑いがある−など基準をもとに不適切な請求をした疑いのある医療機関を抽出。作業が膨大になるため、疑いが高い順に全医療機関の4%にあたる8000機関を毎年、調査対象に選んでいる」と書いている。しかし、厚労省の公式な通知では、(3)は「1件当たりの点数の高い医療機関」としか書かれていない。毎年機械的に抽出されるのであって、「高額で過剰診療の疑いがある」からではない。そもそも一律に個別指導の対象とされること自体がおかしいのである。

 一方、全国の地方厚生(支)局及び都府県事務所における指導・監査担当者は、保険医療機関数に比して人員配置されているわけではない。京都でも、2012年度は医科の指導医療官が欠員だった(2013年度から1人就任)。

 そのため、保険者や患者等から情報提供があった医療機関や、前年再指導と決定された医療機関を優先して指導している。特に医療機関数が多い都道府県では、「疑われて選定されたのではない」高点数が理由の選定対象に対する指導が、後回しになるのは当然だ。その結果、選定数に対して実施数が少なくても、何の問題もない。

 しかし、記事は「疑いが高い順に全医療機関の4%」と記述したため、全ての選定対象に、強い不適切請求の疑いがあるかのような印象を与えた。これは、非常に重大な認識の誤りである。

事実に基づく記事とともに全文撤回求める

 この記事を担当した記者は、高齢者施設における「患者紹介ビジネス」の記事や、大衆薬・漢方薬のインターネットや郵送による販売規制を求める記事等、医療界を専門にしている。朝日新聞はこの記事の数日後、現在の審査支払機関を批判した記事も掲載しており、我々から見れば医療保険制度、国民皆保険制度に影響のある記事が掲載されている。

 協会としては、これ以上、誤った考え方に基づく記事が掲載されるのを看過できない。同記事の全面的な撤回を求めるとともに、朝日新聞社へ懇談の機会等を求めていく。

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