個別指導の選定対象医療機関を一律に「不適切請求疑い」と報じ多くの医療機関に不正があるかのような誤解を与え行政指導と質問検査を混同した朝日新聞5月11日の報道に抗議します  PDF

個別指導の選定対象医療機関を一律に「不適切請求疑い」と報じ多くの医療機関に不正があるかのような誤解を与え行政指導と質問検査を混同した朝日新聞5月11日の報道に抗議します

 朝日新聞は2014年5月11日朝刊1面に「医療費不適切請求疑いの8,000医療機関/厚労省、半数を放置」と題した記事を掲載しました。「厚生労働省が毎年、診療報酬を不適切に請求した疑いがあるとして調査対象に選んでいる全国約8,000の医療機関のうち、実際には半数程度しか調査せず、残りは放置している」、「年40兆円超の税や保険料などが投入される医療費について、行政のチェックは極めてずさんだ」等と報じています。

 しかし、この記事は、複数の点で事実を誤認しており、また、読者に対して誤った考え方を押し付けています。地域医療を守るために日々努力している保険医として、納得できない記述が目立ちます。社会的責任を有する報道機関として、あまりにも不適切な記事だと言わざるをえません。我々は抗議すると共に、全面的な撤回を求めます。

 第一に、8,000件という対象です。これは、2007年5月15日の経済財政諮問会議に、当時の柳澤厚労大臣が提出した「経済財政改革の基本方針2007」の中で、「個別指導の数を毎年8,000箇所を目指す」と数値目標を上げたことに始まっています。しかし、この数値目標は、医療費抑制を狙って当時の件数の約3倍の数値を掲げただけのものです。年間8,000件の個別指導を行わなければならない根拠は全くないのです。

 第二に、個別指導は被指導者の任意の協力により行われる行政指導であり、行政が質問・検査権を発動して行う監査とは異なります。「指導大綱」には「保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的」に、「保険診療に請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼として、懇切丁寧に行う」と定められています。朝日新聞は、様々な分野で行われている行政指導について、行政処分を前提とした質問・検査と同様のものであると考えているのでしょうか。事実誤認も甚だしいと言わざるをえません。

 第三に、朝日新聞は全国8,000件の対象について、「不適切な請求をした疑いのある医療機関を抽出」した中から「疑いが高い順に(中略)対象に選んでいる」と書いていますが、選定医療機関には、平均点数が高い医療機関も含まれています。これについて朝日新聞は「患者一人あたりの請求書が高額で過剰診療の可能性がある」と書いていますが、これはあまりにも偏向した単なる憶測です。例えば平均点数が高い医療機関を選定するための区分について、「内科(人工透析有以外)」という大きな区分がありますが、内視鏡検査を行う医療機関や、院内処方で肝炎治療特別促進事業に協力する医療機関、在宅医療を積極的に行っている医療機関などでは、必然的に平均点数は高くなります。個々の患者さんの傷病に過不足なく医療を提供した結果、平均点数が高くなってしまうことを、「過剰診療の疑いがある」と評価した朝日新聞の認識は、全く誤っていると言わざるをえません。

 事実、厚労省は1996年3月29日の質問集の中で、「高点数が即悪いものとは限らない。何故高点数を基準とするのか」との質問に対して、「公平で客観的な指標として高点数を用いることとした」と回答しています。

 なお、京都府においては、実施率が2010年度32%、2011年度31%、2012年度34%と報じています。これは、地方厚生局が毎年作成する「指導及び監査の実施状況報告書」に書かれた数値から割り出したものですが、「情報提供」「再指導」「高点数」「その他」の内訳は開示されていません。しかし、京都府保険医協会が別に入手している2012年度の選定委員会京都部会の資料を見ると、病院10件中7件、診療所72件中67件、歯科85件中80件、薬局40件中34件が高点数で、その比率は90%を超えます。医療機関数が多い都道府県において実施率が低いのは、「保険者、審査支払機関、患者等から情報提供があった」医療機関を優先して指導しており、それ以上能力的に対応できないためです。以上のことから、今回の報道は、多くの読者に対して誤解を与える、事実、実態に基づかない記事であると言わざるをえません。

 朝日新聞は、朝刊約760万部、夕刊約280万部を販売し、全国で約14%、3大都市圏では約18%の普及率を有する、社会的影響力の大きい新聞です。上記のような事実誤認、誤った考え方に基づく記述により、我々保険医と患者との信頼関係に悪い影響が与えられたと感じています。

 我々は、地域において「保険で良い医療」を求める保険医として、5月11日の記事を看過することはできません。我々は同記事の全面的な撤回を求めるとともに、朝日新聞社にもっと医療の現場や、審査、指導、監査の問題について知ってもらうため、懇談の機会等を求めます。

2014年5月27日
京都府保険医協会定例理事会

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