保守二大政党と大連立の衝動  PDF

保守二大政党と大連立の衝動

 菅政権が、脆弱な支持基盤のもとでゆきづまるなか、年末年始をはさんで、大連立を求める声と動きが活発化しました。この声は、大連立の当の対象である民主党・自民党の中からというよりも、その外から、もっといえば、財界やマスコミから声高にいわれるようになりました。「大連立」とは、いうまでもなく、自民党と民主党という保守二大政党が連立政権をつくることです。では一体、なぜいま、大連立の合唱が湧き起こっているのでしょうか。それは、保守二大政党制の動きとどんな関係があるのでしょうか。

 2011年正月元旦の新聞社説にはびっくりさせられました。「朝日新聞」と「読売新聞」の二大紙がそろって大連立を呼びかける社説を掲載したからです。
「朝日」の「今年こそ改革を―与野党の妥協しかない」と題した社説は、こう展開しました。少子高齢化のもとでの社会保障の危機克服、財政再建、中国などの成長に立ち向かうためのTPPなど焦眉の課題を実現するには、「政権交代の可能性のある両党が協調する以外には、とるべき道がないではないか」。これら課題実現には両党が一致している。菅政権単独でできないなら大連立以外にない。自民党は菅政権を倒すのはやめろ、民主党はマニフェストを清算して連立しろ―こういった調子です。
「読売」社説はさらに踏み込んで、菅政権のもとでの「暫定的な連立政権」樹立を呼びかけています。民主党と自民党が大連立を組んで、「普天間移設、TPP、消費税率引き上げといった緊急かつ重要な課題を解決」し、そのあと解散して選挙をやればいいじゃないかというのです。
財界も、経済同友会が同様の主張を強く打ち出しています。今まで、自民党・民主党が競い合う保守二大政党制を実現しろと主張してきたマスコミや財界が、一体どうしたのでしょうか。しかも、「朝日」「読売」そろっての主張とは!
理由は簡単です。菅政権の掲げた構造改革推進・日米同盟回帰のための諸課題は、保守支配層が切望しているにもかかわらず、脆弱な菅政権ではとうてい成立がおぼつかないからです。とすれば、主張を同じくする民主党と自民党が、政局を乗りこえて連立しなければならないというわけです。
保守支配層が大連立でなければできないであろう、待ったなしの課題とは、消費税の税率引き上げ、TPP締結による自由貿易体制づくり、少数政党を淘汰する衆参両院定数の削減、そして普天間基地の辺野古移転などです。これらは、構造改革・日米同盟強化のために緊急不可欠の課題でありながら、いずれも国民に大きな犠牲を強要する施策であるため、野党ばかりでなく、民主党・自民党内からも強い異論があります。そしてこの課題は、どの政権でも単独では強行するのが難しい課題であり、いわんや菅政権ではとうてい実現できない課題ばかりです。そのため、これらの早期実行を切望する財界やマスコミは、その決め手として、大連立を声高に推奨しているのです。

 大連立は、保守二大政党制の矛盾の産物といってよいものです。前回述べましたように、保守二大政党制は、大きく保守の路線で一致する2つの政党―日本では、構造改革と日米同盟強化で一致する政党―が交互に政権を担うことで、構造改革を継続的に遂行し、かつ改革による矛盾の鬱積を政権交代でガス抜きすることをめざした体制ですが、課題遂行の継続と目先の変化のあいだには大きな矛盾があります。
今回の政権交代でも、この矛盾が現れました。国民の不満を吸収するために、民主党政権は自公政権が推進してきた保守の枠組みを逸脱せざるをえず、政治を保守の枠内に戻すために登場した菅政権は、今度は国民の不信を買って、支持率低下に悩んでいるからです。そこで、この矛盾を解決する奇手・・として出てきたのが大連立なのです。ところが、大連立も万能ではありません。これをやると、国民の前で、保守二大政党はじつは同じ穴のムジナだということが露呈してしまいます。大連立で消費税引き上げは強行できても、次の選挙では民主党も自民党も苦戦するでしょう。国民の多くは翼賛体制を嫌い、別の選択肢を求めて少数政党に向かうことは必定だからです。

 ところで、当の民主党も自民党も、こうした大連立には今のところ乗り気ではありません。なぜでしょうか。自民党は、泥船のような菅政権と大連立を結んで政権延命に手を貸すことは愚の骨頂、それより解散あるいは総辞職に追い込んで政権奪還をはかるほうが早道と考えていますから、菅政権下では大連立はしない公算が強い。かたや菅政権も、そうした自民党と組むには、最低でも菅首相の首を差し出し、自民党側から首相を出すくらいのことをやらねばなりませんが、政権維持至上の菅はやるつもりがないからです。
しかし事態は予断を許しません。なぜなら、菅政権の現状では、保守支配層が切望し、菅政権が実現を約束している消費税引き上げ、TPP、衆参両院定数削減、普天間問題の辺野古決着などはとうてい無理だからです。それどころか、11年度予算関連法案すら通ることはおぼつかない。そのため保守支配層の圧力は強く、早晩何らかのかたちで大連立に向かわざるをえない公算は高いのです。
ではどんな道すじを考えているのでしょう。今後の予想はつきませんが、菅政権がゆきづまって総辞職する。次に代表選をふまえて前原政権ができ、前原政権のもとで解散・総選挙になる。民主党は減り、自民党は増えるでしょうが、いずれも過半数にはいかない。たとえ民主党が相対多数を獲得しても、逆に自民党が逆転して多数を握っても、衆参のネジレもなくならない。ここで多数をとったほうのイニシアティブで大連立が登場する可能性が生まれます。あるいは、菅政権が解散・総選挙にもち込むかもしれません。しかし、選挙のあとは先の結果と同じ、多数をとったほうが主導で大連立という可能性がでてきます。財界・マスコミが強力に主張しているだけに、こうした危険性は濃厚です。
では、どうするか。いずれにせよ、大連立に向かう前には解散総選挙が濃厚です。このとき、有権者が保守二大政党のいずれもが掲げる課題―消費税引き上げ、普天間辺野古移転、衆参両院定数削減にノーを突きつければよいのです。そうすれば、保守二大政党は、選挙後も容易に大連立には踏み込めなくなります。いずれにしても、大連立は日本政治を大きく転換する最悪の選択ですから、絶対に止めなくてはなりません。

クレスコ編集委員会・全日本教職員組合編集
月刊『クレスコ』3月号より転載(大月書店発行)

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