代議員月例アンケート(71)
医事紛争減少も患者対応の困難さは軽減せず
理解し難いクレームを言ってくる患者さんについて
対象者=京都府保険医協会代議員95人 回答率=21・1%
回答数=20人(内、無床診療所15人、有床診療所2人・病院2人、不明1人)
協会は、会員に対して常に医療安全対策を啓発してきた。その中で「対応に苦慮する患者さんたち―応召義務について」と題した医療安全シンポジウムを2012年に開催したところ、例年の2倍近い参加者があり、会員がいかに患者対応に苦慮しているかの表れと考えた。そこで、13年3月9日に前回のパート2として「患者さん対応に困ったケース―守秘義務等について」のテーマで開催したところ大変盛況であった。今回は、このシンポジウムに先立ち、理不尽とも思えるクレームを言ってくる患者の実態について、アンケート調査を実施した。
医療に無関係なクレームが最多
医学的には問題のない(医療事故でも過誤でもない)と思われる、理解し難いクレームを患者から受けた経験を尋ねたところ、約半数が「殆どない」「全くない」と答えている。経験のある方でも「数年に1回程度」が最も多く、毎月クレームを受けている方は1人のみであった(図1)。
クレームは、「自院の診療方針・システム」(診療時間帯や待ち時間等にかかわるものが多いと推測される)が最多6人(30・0%)で、続いて「従業員の態度」が3人(15・0%)であった(図2)。医療行為に直接かかわる内容では「手術」や「診断」「薬剤」の3項目を合計しても「自院の診療方針・システム」を下回った。つまり、理不尽なクレームには医療・医学と直接関係のない内容が多いと推測できる。現場医師の苦労が窺い知れる。
対処法は「院内で協力」
クレームの対処法として最も多いのが、40・0%を占める「院内で協力」8人であった(図3)。恐らくはクレームのレベルにもよるのであろうが、「自分のみ」で対応したケースも3人(15・0%)と「保険医協会に相談」と並んで第2位であった。協会は機会あるごとに、トラブルは当該者だけで対応・解決しようとせずに、複数で対応することを勧めている。今後とも医療機関の規模にかかわらず、患者の対応およびその方法は院内で共有化していただきたい。
困った時はまず協会へ相談を
今回は理不尽なクレームに限定したが、院内で共有する姿勢こそがヒヤリハットや、ひいては医療事故・紛争を予防する大きな助けになる。もちろん、院内で手に負えないと判断された場合は、協会に連絡いただければいつでも助言・対応できる体制を整えている。
アンケートの結果でも実際に3人の方が協会に連絡をいただいている。患者のクレームが医事紛争にまで至る場合は、弁護士や警察に相談されるケースも想定できるが、今回は皆無であった。ここからも患者の理不尽なクレームが、それほど大問題となっていない様子が窺われる。もちろん、弁護士や警察沙汰になっていないからといって、現場の困難さを軽んじることなく、協会としても個別具体的に会員からの相談に乗ることはいうまでもない。
トラブルの「質」が変化?
現時点での患者対応の悩みの有無を尋ねたところ、未回答の1人を除いて全員が「全くない」と答えた。しかしながら、その一方で医事紛争が減少し始めた10年前と比較して、患者対応の困難さの程度を尋ねると、「やや困難になった」「変わらない」が最も多く、各々5人(25・0%)。「やや楽になった」は1人(5・0%)のみで、「とても楽になった」と答えた方は全くいなかった(図4)。現場における患者の対応の困難さは、医事紛争が減少したからといって軽減されていない様子が窺える。これはトラブルを「量」のみでなく「質」の問題として捉えなければならないことが、改めて示唆されたと解釈できる。
なお、マスコミ報道によって「モンスター・ペイシェント」という呼称が、随分と広まっている。しかし、先述した医療安全シンポジウムでパネリストになった看護師から、「世間で言われるほどモンスター・ペイシェントは多くない。この呼称は医療機関側にとっても何の有益ももたらさない」といった意見も聞かれた。協会としては、一見して不合理と思える要求をしてくる患者に対しても、その背景・真意を考慮して、いかに会員と患者の関係を良好に保つことができるか、あるいは再構築できるか、今後とも調査・研究を深めていきたい。
医療安全の工夫等について
自由筆記の形式で、自院で実行している医療安全に関する具体策や工夫等を尋ねたところ、9人から回答があったので、その全てを挙げる。
1、ダブルチェック、同意書について説明する。
2、(1)薬剤が袋に入っていなかったり数が少ないというクレームが過去にあったので、患者に確認してもらうようにしているが、患者のクレームが激しいときは不足分を渡すようにしている。(2)保険証の提示を求めたところ、不携帯にもかかわらず逆切れされ謝らされた。これは患者側に問題がありどうしようもない。当方が悪かったのか? (3)いつごろ治癒するという予想に関して、人によって違うということを説明するも診断が悪いという難くせがあった。廻り回って10年後に再び受診、この頃は大人しく受診している。工夫の仕様がない。
3、こちらの言動にもすごく神経を使うようになってしまいます。疲れます。
4、自分の良心に従って丁寧かつ親切な診療を行うだけです。
5、待ち時間について、時間がかかると思われる検査等がある場合には、希望があれば予約を取ることにしている。
6、保険医協会が出しているDVDを職員が見て学習した。一人ひとり感想を文章に書いてもらった。
7、(1)投薬は、ダブルチェック制にして2人でチェックする(サインあり)。(2)外来診療の順番が来ると看護師が待合ロビーで待っている患者様を迎えに出て、氏名を確認して診察室に誘導する。(3)外来診療開始1時間前に、清掃業者が清掃して、同時に破損個所等の点検をしている。
8、いわゆる「接遇」。
9、電話による自動受付のシステムに変更してから、患者さんの待ち時間等のトラブルが少なくなった。
協会に期待することは
自由筆記の形式で、協会の医療安全対策への希望・要望を尋ねたところ、3人から回答があったので、その全てを挙げる。
1、そのような機会があれば対応、相談したい。
2、今後ともよろしくご指導をお願い致します。
3、我々の側はどうしても診察に忙殺され、医療安全になかなか注意が向けられない傾向があるので、協会は適切な注意喚起で対策の指示を引き続きお願いしたい。
自由筆記の形式で、協会の医師賠償責任保険制度に対する希望・要望を尋ねたところ、2人から回答があったので、その全てを挙げる。
1、協会の制度を変わらず維持していただきたい。
2、医師会の医師賠償責任保険との違いと整合性につき教えて下さい。
◇ ◇
協会と他者の医師賠償責任保険の違いは、会員からもしばしば質問され、機会あるごとに広報してきているが、ここであらためて協会の医師賠償責任保険を含めた医療安全対策の主な特徴を紹介する(下掲)。
協会の医賠責保険 5大メリット
その1 全国で、「最長」の歴史を持つ医療安全対策
半世紀以上も遡る、1959年度(昭和34年度)から医事紛争に対応しています。蓄積されたデータとノウハウに基づく親切でレベルの高い対応力を誇っています。
その2 全国で、「最初」に刑事事件への保険対応を実現
京都協会が独自に企画・立案して、刑事事件の弁護士訴訟費用の保険対応を、我国で最初に実現させました。
その3 京都府内で、「最多」の紛争対応です
既に2,000件を超える医事紛争に対応、その殆どが解決に至っています。
その4 京都府内で、「最短」時間で解決に至ります
協会以外が取扱う紛争対応よりも、平均して短期間で解決に至っています。
その5 「最小限」に紛争拡大を止めます
協会が対応すれば、患者側も医療機関側もともに弁護士の介入率が低く、最小限の労力と費用で解決することができます。