代議員月例アンケート(57)  PDF

代議員月例アンケート(57)

地域包括ケアと医療のあり方について
調査期間=2010年11月29日〜12月24日
対象者=京都府保険医協会代議員95人 回答数=36人(回答率38%)

 今国会に介護保険法改正法案が提出されようとしている。介護保険制度は5年を目処に見直されることになっており、今回二度目の見直しを迎えるためである。今改正のキーワードとなるのが「地域包括ケアシステム」構想である。これは、介護にとどまらず地域における医療のあり方を根本的に転換させるものとなっている。今アンケートでは、この「地域包括ケアシステム」がどのようなものとして構想されているのかについて紹介し、代議員の意見を聞いた。

認知度は5割

 まず、国が進める「地域包括ケアシステム」構想を知っているか聞いた。「知っている」「知らない」ともに同数であった(図1)

図1

 「地域包括ケアシステム」は次のように定義されている。「概ね30分以内に、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」

 そして、これを住民自身の自助や互助(NPOなどによる助け合いサービスやボランティア)と、介護保険や医療保険という共助(政府はこれら社会保険を公的責任から少し距離を置く「共助」の仕組みと定義)を組み合わせ、地域包括支援センターのコーディネートによって実現しようと考えている(公助という言葉は出てくるが、具体的な中身は何もない)。

国構想の実現性に疑問

 これは、公的責任抜きで地域の医療・介護体制を実現しようする、「画餅」に等しい構想だと考えられるが、そのことへの意見を聞いた。「賛成」14%、「反対」39%で、「どちらとも言えない」が42%と最も多かったが(図2)、その理由では、「自助・互助・共助の組み合わせはよいが、現実には簡単ではない」「定義には賛成だが都市部以外は無理」など、実現可能性に疑問を持つ意見が多かった。

図2

 地域包括ケアを支える各分野における専門職種間の役割分担と協働について、当面の案としつつ、次のようなことが提案されている。それぞれについて意見を聞いた。

 「1、24時間対応の看護・介護体制をバックアップする地域医療体制の充実が不可欠。在宅療養支援診療所等の日常生活圏域での確保など、夜間を含め地域での一次医療を担う「地域当直医」の整備・普及をしていく。」

 「2、介護福祉士の業務範囲の見直しとともに、看護職については例えば一定範囲内の薬剤選択・量の調整・処方の実施など、在宅医療をより積極的に提供できる方策を検討する。」

地域当直医に6割が慎重

 「1」について、「『地域当直医』は重要。自分も担い手になりたい」との賛成意見の選択はゼロで、「現実的ではない。かえって地域医療崩壊を早める」との否定意見の選択が64%を占めた(図3)

図3

看護の業務拡大6割不安

 「2」について、「非医師の業務拡大は必要であり、在宅医療でも同様」との賛成意見の選択は17%で、「安上がりの医師不足対策であり、安全性の面からも不安」との否定意見の選択は64%に上った(図4)

図4

 2025年の地域包括ケアシステムの姿の中で、リハビリ機能を持たない従来の介護保険施設は「ケアが組み合わされた集合住宅」と位置付けられ、医療・看護・介護サービスはその住宅の外の事業所から、在宅向けのサービスとして提供されるという絵が描かれている。このことの評価について聞いたところ、「在宅介護が充実すれば施設の役割は縮小していくので賛成」との回答はわずか3%で、「受け皿なき施設解体であり反対」が61%であった(図5)

図5

 このように、「地域包括ケアシステム」構想については、実現可能性に対する疑問が呈され、専門職種間の役割分担、介護保険施設の機能変更についても、反対する意見が大勢を占める結果となった。

医療・介護に必要な財源を

 最後に、地域のお年寄りやケアを必要とする人々に、適切な介護や医療、福祉を包括的に提供していく上で、今、国や自治体がしなければならないことについて、自由意見を聞いた。

 まず、地域包括ケアの将来像については、「在宅体制は家族の負担が大きすぎる。地域包括ケアシステムという美名のもとに、家族は疲れ、本人は身を縮めて生きていく、これが将来の姿である」「まったく血が通っていない。童話『モモ』に描かれているように、省時間、効率化によって、人間性が失われていく」「地方では医療の力も減少してきている。その中でさらに負担を強めれば、地方での開業希望の医師はさらに減る」と、その理想とは裏腹に、医療・介護は崩壊していく未来を予想。

 充実した医療・介護を実現するための前提として、「必要なサービスは、コストを考えずに提供を」「国や自治体による大幅な公費負担の増額が必要」「介護や福祉に予算を割くこと」「本当に必要な予算を増やすこと」など、まず必要な額の公費を投入することを求め、「権利としての社会保障が機能する大きな財源を持つ政府が必要」「高齢者の医療費負担をなくし、年金を確保し老後を安定させ、預貯金の必要性をなくす。それが日本経済を活性化させ、財源を生み出し、さらに介護・福祉を充実させる」と、社会保障重視の政策が内需主導の経済成長と、生活の安心の両方を生むという、新しい福祉国家を目指すべきとの処方箋が提示される結果となった。

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