代議員アンケート(53)/予防接種施策の問題点

代議員アンケート(53)/予防接種施策の問題点

調査期間=2009年12月11日〜28日
調査対象=協会代議員93人 回答数=40(回答率43%)

 今日本では予防接種施策の不十分さから、ワクチンで予防できる病気(VPD:Vaccine Preventable Diseases)にかかって障害が残ったり死亡したりする事例が後を絶たない。その一つである細菌性髄膜炎は、他の感染症との区別が難しく、早期診断が非常に困難であり、適切な治療を早期に行っても、2〜5%の患者が死亡し、15%〜30%に永続的な神経学的後遺症が残ると言われている。この細菌性髄膜炎には有効なワクチンが存在する。その一つであるヒブワクチンは、欧米では90年代前半には定期接種が始まり、導入後すぐに効果が出ている。WHOも定期接種化の勧告を出しており、現在94カ国で定期接種になっている。日本ではようやく08年末に発売が始まったが、任意接種で3万円前後の費用がかかり、供給量も十分ではなく、申し込んでも数カ月待ちの状況が続いている。もう一つの有効なワクチンである小児用肺炎球菌ワクチンも10月に承認されたばかりで、同じく任意接種で4万円前後の費用がかかる見込み。このように、日本と諸外国の間には大きな「ワクチンギャップ」が存在している。そこで、アンケートでは、この立ち遅れた日本の予防接種施策の問題点についての意見を協会代議員に問うた。

ワクチンギャップ9割が既知

 問1では、日本と諸外国の間のワクチンギャップの存在を知っているか聞いた。「はい」は90%、「いいえ」は8%、「その他」は3%と、子どもに関係することが多いワクチン問題であるが、ほとんどの回答者が知っていると答えた。

 問2では、具体的なワクチンギャップについて、世界では定期接種が普通となっているにもかかわらず、日本では任意接種のままであるワクチンがあること(B型肝炎、ヒブ、小児の肺炎球菌、成人の肺炎球菌、おたふくかぜ、みずぼうそう、子宮頚がん等)、そもそも承認されていないものがあること(ロタウイルス、不活化ポリオ等)を知っているか聞いた。「はい」が85%、「いいえ」が10%、「その他」が5%で、これも多くの回答者が知っていると答えた。

ヒブの定期接種化に8割近く賛成

 問3ではヒブワクチンについて聞いた。

 ヒブ(Hib=ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型)が引き起こす細菌性髄膜炎は非常に重篤な病気であり、近年は菌の耐性化も進み、治療がますます困難になってきている。しかし、高額な費用負担が接種の妨げとなっているだけでなく、そもそも供給量が不足している。これは、任意接種のために、ワクチンメーカーが大量供給に踏み切れないことも理由と言われている。

 このヒブワクチンの定期接種化の是非について聞いた。「賛成」が78%、「反対」が3%、「その他」が20%となった。「知識不足でわからない」などの理由で「その他」の割合が一定あるものの反対はほとんどなかった(図1)

図1 ヒブワクチンの定期接種化

肺炎球菌の定期接種化も多数が賛成

 問4では、小児用肺炎球菌ワクチンについて聞いた。肺炎球菌も同じく細菌性髄膜炎を引き起こす原因菌の一つであるが、これも任意接種で高額の費用がかかる見込み。

 この小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化の是非について聞いた。「賛成」が75%、「反対」が3%、「その他」が20%、「無回答」が3%で、前問と同様「知識不足等」で「その他」の回答が一定数あるが、反対はほとんどなかった(図2)

図2 小児用肺炎球菌ワクチンの定期接種化

 問5では、成人用肺炎球菌ワクチンについて聞いた。

 高齢者の主要な死因である肺炎の原因となる肺炎球菌は、抗菌薬が効かない耐性菌も多くワクチン接種による予防が効果的と考えられている。この成人用肺炎球菌ワクチン接種に対して、公費助成を行うことの是非について聞いた。「賛成」が83%、「反対」が5%、「その他」が13%で、これも反対はほとんどなく、賛成が多数を占めた(図3)

図3 成人用肺炎球菌ワクチンに公費助成

7割がポリオの不活化切替に賛成

 問6では不活化ポリオワクチンについて聞いた。

 現在、日本のポリオワクチンは経口生ワクチン(Oralpolio vaccine:OPV)が使われている。これは、安価でかつ確実に抗体をつくることができるというメリットがある半面、ワクチン株によるポリオ様の麻痺(ワクチン関連麻痺:Vaccine associated paralytic polio:VAPP)や、接種を受けた人の周囲の免疫を持っていない人への感染が極めてまれながら起っている。このことから、OPVを早急に不活化ワクチン(Inactivated polio vaccine:IPV-注射による接種)に切り替えることの是非を聞いた。「賛成」が70%、「反対」3%、「その他」28%で、ここでも「知識不足等」などから一定の「その他」があるものの、反対はほとんどなかった(図4)。さらに、三種混合ワクチンに不活化ポリオワクチンとヒブワクチンを加えた五種混合ワクチンを導入すべきとの意見もあった。

図4 不活化ポリオワクチンへの切り替え

新型インフルの公費負担に賛成約7割

 問7は、新型インフルエンザワクチンについて聞いた。この秋冬の新型インフルエンザ流行によって医療現場は大きく混乱した。自治体によっては優先接種対象者に費用助成を行うところがあるが、より広く感染を予防するために、希望者全員へのワクチン接種を公費負担で行えるようにすることの是非について、「賛成」が68%、「反対」が20%、「その他」が10%、「無回答」が3%であった。他の設問に比べて反対の割合が高く、理由としては、「ワクチンはスプリット型であり、その効果は限定的なため」「公費負担なら希望者のみにはそぐわない」などの意見であった(図5)

図5 新型インフルワクチン接種への公費負担

日本にもワクチン勧告機関が必要

 問8では、日本のワクチン行政を強化するために「日本版ACIP」を設置することについて聞いた。

 ACIPとは米国予防接種諮問委員会(Advisory Committeeon Immunization Practices−エーシップ)のことで、ワクチンに関する勧告を行う唯一の機関として、助言・指導を保健福祉省と疾病管理予防センターに行っている。今日のように日本の予防接種施策が立ち遅れてしまった主な原因として、このACIPのように国の予防接種施策に専門家の視点から助言し政策決定に関与できる組織がないことが指摘されている。そこで日本でも「日本版ACIP」を設置し、ワクチン行政を強化することの是非について聞いた。「賛成」が90%、「反対」が0%、「その他」が8%、「無回答」が3%であった。(図6)

図6 日本版ACIPの設置について

 最後に、日本の予防接種施策の問題点・改善すべき点について、自由に意見を聞いた。現状については「他国より20年遅れている」「諸外国で行われている予防接種に対しての正当な評価を行政が行っていない」との声が聞かれ、「全面的に国の政策を切り替えるべし」「政策決定に、もっと現場の医師の意見を反映すべき」「行政外から『ACIP日本版』設置等により、助言ではなく指導していくことが必要」との意見が寄せられた。

 また、ACIPについては「厚労省の役人が権限を持っている限り、彼らに副作用の責任がかかり、科学的に正しい公衆衛生は不可能。日本版ACIPが最重要」との意見も聞かれるなど、副反応に対する補償も含めて、総合的にワクチン施策を検討・推進する仕組みが求められている。

 折しも国は、新型インフルエンザの予防接種実施を契機に、09年12月より厚労省の厚生科学審議会の中に予防接種部会を設け、予防接種に関すること全般についての審議を始めている。この機会を捉えて、ワクチン施策を一歩でも前進できるよう、保団連、各協会・医会とともに努力していきたい。

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