代議員アンケート(45)
後期高齢者医療制度に対する訴えや実害について
調査期間
調査方法
調査対象
回答数
4月より後期高齢者医療制度が始まり4カ月が経過した。この間、協会は絶え間なく制度廃止の署名に取り組み、全国的にも保団連、各協会・医会、都道府県医師会や老人クラブ連合会といった組織レベルから、マスコミや著名人、そして草の根の市民レベルまで幅広い反対の声が広がった。4野党も廃止法案を国会に提出するに及び、ついに政府も6月12日に「運用改善策」を提示するに至ったことはすでにご承知の通りである。
しかしながら、今回の「運用改善策」は保険料軽減等が主な内容であり、「後期高齢者」をわざわざ別保険とし、それゆえ高齢者が負担できる保険料額によって医療費総額が規定されてしまうという、最大の問題は何ら解決されない。それどころか、抜本的に見直すつもりがないことを与党幹部は繰り返し述べている。そして、廃止法案の参院委員会可決を「暴挙」と切り捨てるなど、2年前に与党が行った医療改革関連法強行採決という「暴挙」をすっかり忘れてしまっている有様である。
そこで、今後ますます制度の廃止を求める声を強めていく必要があると考え、表記アンケート実施した。概要は以下のとおり。
6割が苦情や相談受ける
はじめに、後期高齢者医療制度について患者さんより苦情や相談があるかどうかを聞いたところ、「ある」が62%、「ない」が38%(図1)で、制度発足による影響の大きさをあらためて感じさせる結果となった。
続いて苦情や相談の内容を聞いたところ、「後期高齢者という呼び方、区分け」73%、「保険料の天引き」58%、「医療内容」38%、「将来の負担増への懸念」38%(複数回答・図2)となり、特に75歳以上高齢者を「後期高齢者」という名称でくくり別枠の医療制度としていることへの苦情・相談が多かった。具体的意見でも、「『後期高齢者』という呼び方が失礼である。早く死ねということか」「高貴高齢者と呼んでほしい」「ネーミングが生理的に不快感を覚える」「年寄りを疎外的に追い込む区分けである」との意見。保険料に関しては「保険料が高くなった」「保険料の天引き額をどうして確認してよいかわからない」「年金の使い方は自分なりに考えて使っているのに天引きされたらかなわない」「保険料が天引きされ、物価も上がり生活が苦しくなった」との意見が寄せられた。医療内容については後期高齢者診療料や健診事業の取り扱いにも絡んで「74歳までの人たちと受けられる治療内容が違うのか?」「検査をしてもらえないのですか?」「これまでは受けられていたドック検診が自費になった」「1人の医師しかかかれないのは不安」「600点しかないと先生に迷惑をかけるんじゃないのか?」との不安の声が寄せられている。
受診控え等で6割が実害
後期高齢者医療制度の対象となる患者さんの受診頻度については、「減った人が多い」27%、「変わらない」60%で「増えた人が多い」は0%であった(図3)。「減った人が多い」との回答についてその理由を聞いたところ、「差別があって老人を軽視している医療に対して信頼感がない」「自己負担、自己負担感の増大」「保険料の天引きによる経済的、金銭的負担が増え、医療費に回す金額が減少している」と制度不信や負担増が理由であった。
引き続いて「減った人が多い」との回答について、受診が減ったことによって受診遅れや疾病管理が不十分になったり、収入が減ったりするなどの実害の有無について尋ねたところ、「ある」64%、「ない」9%であった(図4)。具体的な実害については「症状がひどくなるまで辛抱してしまう。膝関節水腫が腫れて歩行困難になってから受診。これでは治療に余計、時間も費用もかかります」「かぜでも、こじらせてから来る人が多くなった」「血圧、糖尿病の治療が放棄される」「定期的な受診が見られなくなった患者さんが数人ある」との受診控えや治療中断が起こっていることについて。「高齢者の受診抑制により、当然かなり収入は減少している」「ボディーブローのようにじんわりと収入が減っています」との受診抑制がそのまま経営に影響を及ぼしていることについての報告があった。
いったん廃止して議論すべし
最後に、後期高齢者医療制度についてどう考えるか、またどうあるべきか、自由にご意見を聞いた。
「医療費削減のための後期高齢者医療制度はおかしい。保険料負担の公平さと後期高齢者の患者さんが安心して受けられる医療制度を再検討してほしい」「75歳以上を別保険にすることがそもそもおかしい。医療は子どもから老人まで皆同じように保障されるべき」「高齢者の医療をどうするか考えた制度でないと、予算から逆算された制度では納得できないのは、医療サイドも国民も同じ」と医療保障を第一義とすることを求める声。
「廃止すべきです」「撤廃あるのみ!」「今年度で中止すべきである」「従来の保険制度が良い」「これまで通りの医療体制に戻すことが、最も患者さんに納得してもらえそうです」との制度の廃止と元の老健制度に戻すことを求める声。
一方で「廃止して元に戻すとしてもそれなりに手当は必要」「これまでの制度では財政的な問題が近い将来生じることは明らか。後期高齢者などと呼ぶ極めてセンスのない制度ではあるが、その徹底改善が最も有用」とただ元に戻すだけでは財政的な課題を解決できないとする意見もあった。
いずれにしろ、「国保がもたない以上高齢者を現役世代と国費で別建てで支えるシステムは必要。しかし『後期高齢者』というネーミングや、管理のずさんだった年金からこういう時はしっかり天引きされることへの不快感。そして内に甘く外に厳しい政府施策への反発などが根深いと感じる。一旦白紙に戻し、命名も変えて制度作りをやり直さないと、小手先だけの改善だけでは、高齢者はもう納得しないだろう」との意見の通り、対症療法的な手直しでは、制度への不信・不満の解決にはつながらない。そして「医療費抑制のための政策であり、より良い医療、あるべき姿の医療を目指していない」以上、実際に医療が十分に保障されることにはならないことは明らかであり、一旦制度は廃止したうえで医療保障を目的とした制度について議論をすべきである。
【京都保険医新聞第2650号_2008年8月4日_4面】