代表選で勝った菅直人はどんな政治をやるつもりか?――菅VS小沢 対決論 その2  PDF

代表選で勝った菅直人はどんな政治をやるつもりか?――菅VS小沢 対決論 その2

 9月14日におこなわれた民主党の代表選で、菅直人が圧勝しました。再選された菅直人は、小沢派を閣内から一掃して改造内閣をスタートさせました。そしてこの対決は、10月5日には小沢一郎が強制起訴となって新たな段階に入りました。この菅と小沢の対決の狂騒劇は、いったいなんだったのか。その政治的意義はどこにあるのか。菅が勝ったことで政治の方向はどのように変わるのか――。検討してみましょう。

  菅と小沢の代表選について注目すべき特徴は3つあります。第1、マスコミの一斉の「大勝」キャンペーンとは裏腹の、小沢の予想外の善戦です。「え?」と、異論をもつ読者も多いと思いますが、1222ポイントのうち菅は721、小沢は491で、その差は230ポイント。このポイント差を額面通りに取っても善戦です。
いかなる意味からも小沢の勝ち目はありませんでした。1つめ、国民の8割が小沢は代表にふさわしくないと表明していたことに現れるように、国民のうち、あなたも含めて、小沢を好きな人はいるでしょうか。ほとんどいません。私も嫌いです。小沢ほどその政治生涯を一貫して、カネで大量の秘書を雇い、利権で票を獲得し、選挙においては財政をえさに利益団体を締め上げる、文字通り、自民党利益誘導型政治の極限のような政治を貫いてきた政治家はいません。小沢を恐れる者、利権目当てですり寄る者はあっても、好きな人間はいないでしょう。2つめ、取り巻きが悪い。菅陣営と比べて、票の獲得に走れば、票が減るような幹部も少なくありません。しかも、小沢の代表・幹事長時代にあれほどすり寄った石井一をはじめ、今回は逃げ去っていった者も少なくありません。3つめ、菅に最大の有利な点は、マスコミが、朝日から産経に至るまで、 恩讐 を越えおんしゅうて、菅支持で一致したことです。
これだけあれば、田中角栄と福田赳夫の総裁選挙の時のようにカネが乱れ飛びでもしない限り、菅は負けるはずがありませんでした。にもかかわらず、小沢はポイントでも500近く、議員票に至ってはほぼ互角まで持ち込みました。
もっとも注目すべきは、党員・サポーター票です。ポイントでは、菅の圧勝ですが、これは党員・サポーター票が総取り制、つまり小選挙区制だからで、票数でみれば、菅13万7998、小沢9万194、約6対4です。政治の世界に小選挙区制を導入して、民意と議席をこれだけ乖離させ、構造改革政治、保守二大政党政治をつくった張本人は小沢一郎その人ですから「ざまをみろ」ですが、この票数は軽視できません。沖縄3選挙区で小沢が勝ったのは普天間問題のゆえですが、菅の地元東京でみても、北区、足立区の一部を擁する12区、墨田、荒川の14区、江東の15区では小沢が勝ち、足立の一部を占める13区、江戸川、葛飾をカバーする16、17区でも接戦です。つまり、構造改革で打撃を受け、低所得者・高齢者層も多い下町地域で  これら地域はじつは共産党票が多く、保守二大政党寡占率も低い地域です
小沢は健闘しているのです。これはじつは、菅政権の推進しようとしている構造改革回帰路線、日米同盟強化路線への異論が民主党内に根強いことを示しています。
第2の特徴は、それにもかかわらず、マスコミが一斉に菅の「大勝」を報じ、菅の勝利は国民世論の勝利であると 称揚 し、あげくは、しょうよう菅政権がゆめゆめ小沢派を重用することがないよう、釘を刺したことです。これは何が何でも菅首相の打ちだした構造改革、日米同盟強化が乱されないように、励まし圧力をかけたことを意味します。

 第3の特徴は、民主党内の激しい対立は所詮、構造改革と利益誘導の選択肢で闘われ、新しい福祉国家への選択肢は、代表選では示されなかったという点です。私は、昨年の民主党政権成立以来、民主党内には、構造改革・日米同盟派の「頭」と、自民党型利益誘導型政治派の「胴体」と、もう1つ、福祉の政治の実現をめざす「手足」という、3つの構成部分があると述べてきました。あの「手足」はどこへ行ったのでしょうか。
鳩山政権成立から1年を経て、当初民主党の掲げた福祉マニフェストの実現への国民の期待に背中を押されて威勢のよかった「手足」は、財界・マスコミ一体となった財政破綻攻勢の中で、次第に構造改革派に押されました。他方、参院選を前に当選を求める議員候補の要求を背に受けて、小沢率いる利益誘導派も肥大化し、地方に対する利益散布をえさに自民党支持基盤の切り崩しに狂奔しました。こうして民主党内では、財界の支持と期待を受けた構造改革派と利益誘導型派の対決が激化し、その狭間で、福祉実現派は、両派に削り取られて先細っていきました。今回の代表選で、菅率いる構造改革派と小沢率いる利益誘導派が激突する中、「手足」はついに、解体状況に陥ったといえます。菅勝利後、マスコミでは小沢派の処遇に目がいく中、菅政権は、福祉派の粛正を敢行しました。福祉実現にこだわって財政削減に協力しない長妻昭をはじめ、福祉派と覚しき人材は一掃されました。そして、小沢強制起訴で、利益誘導派も政治的中心を失い、党内はいまや構造改革派がヘゲモニーを握っています。

 民主党代表選で何がわかったのでしょうか。第1、代表選を通じて菅政権が掲げる構造改革・日米同盟強化路線に対する異論がことのほか強いことが改めてわかったことです。第2、それだけに財界もアメリカも、またその要請を自覚的に受け止めたマスコミも、いっせいに菅政権を応援し、他方、自民党にも菅政権への協力を命じ、構造改革路線の遂行に躍起となっていることが判明しました。マスコミのキャンペーン、財界のしつこいばかりの菅政権支持は、彼らの苛立ちと余裕のなさを示しています。第3、しかし代表選では、構造改革派の敵は利益誘導派であり、福祉派は、民主党内からはまとまった政治勢力としては消滅しました。そのか細い担い手すら失った結果、いまや民主党政権の下で、福祉国家型の政策はおろか、個々の福祉政策もその実行は難しくなり、利益誘導派も解体状況に陥りました。
以上の検討から、菅政権の今後が見えてきました。菅政権は、党内の敵を一応鎮圧した結果、発足時にも増して、構造改革・日米同盟路線を突っ走らざるをえなくなることは間違いないということです。しかし党内の約半分は、構造改革に異論をもっているため、その前途は容易ではありません。

クレスコ編集委員会・全日本教職員組合編集
月刊『クレスコ』11月号より転載(大月書店発行)

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