今次介護報酬改定から読み取る/維持期リハビリの医療保険からの完全切り離しへの布石

今次介護報酬改定から読み取る/維持期リハビリの医療保険からの完全切り離しへの布石

介護報酬と通所リハビリ改定

 09年4月1日、介護報酬が改定された。公称では3%の引き上げ。00年の介護保険制度発足以来、2度のマイナス改定を経て、「介護崩壊」が極めて深刻化、社会問題化した結果のことである。改定内容は多岐にわたるが、中でもリハビリテーション(以下「リハビリ」)関連の改定内容は非常に注目に値する。次回の診療報酬改定に直結すると考えられるからだ。
通所リハビリ(以下「通所リハ」)では、今回「短時間」(1時間以上2時間未満)の実施区分が新たに設けられると同時に、別途体制届出が必要なものの、保険医療機関(以下「医療機関」)が通所リハ施設として「みなし指定」されることになった。この内容については、社会保障審議会介護給付費分科会で「リハビリの利用者が、医療保険から介護保険に移行しても、ニーズに沿ったサービスを継ぎ目なく一貫して受けることができる」ようにと説明されている。

 厚労省の思惑

 厚生労働省には、維持期リハビリを介護保険で実施させたい意向があるが、通所リハ等維持期リハビリを実施できる施設や人員の不足から、思惑通り進んでいないのが現状である。しかし、今回の改定で通所リハに導入された「短時間」実施区分と医療機関「みなし指定」は、維持期リハビリの介護保険移行を一気に加速させる危険性がある。「みなし指定」されたことにより、医療機関は、現在医療保険を使って行っている維持期リハビリを、介護保険を使って実施することができ、リハビリを実施する場所や内容はそのままに、保険の種類だけを変えるということが可能になるからだ。

 報酬による誘導

 また、報酬による介護保険への誘導という側面も見逃せない。介護保険の通所リハ費と医療保険の脳血管疾患等・運動器リハビリ(以下「医療保険リハ」)料の内容を、簡単にまとめると図表1となる。通所リハが1時間以上2時間未満(20分以上の個別リハビリ含む)、医療保険リハがリハ実施時間(20分以上)と、その拘束時間に違いがあり、個別リハビリを実施する時間以外をどのように取り扱うかにもよるが、その報酬は、通所リハで最も低い要介護1の介護報酬が、医療保険リハで最も高い脳血管疾患等リハビリ(1)の診療報酬を上回っている。個別リハビリの実施を規定通り行えば、短期集中リハビリ加算も別に算定可能な上、他にも医療保険リハビリにはない加算単位数が設定されている。

 訪問リハビリも改定されており、報酬設定が1日当たりであったものが、1回当たりと改められた。1回の実施は20分以上と、医療保険の1単位20分以上に揃えられた。介護保険と医療保険の訪問リハビリを比較したものが図表2である。基本単位数(点数)が、介護保険の訪問リハビリの方が高めに設定されたのに加えて、短期集中リハビリ加算をはじめとした各種加算も設定されている。訪問リハビリの対象はいうまでもなく在宅の利用者(患者)である。急性期・回復期を脱した維持期リハビリそのものである。ここにも介護保険への報酬による誘導が見られるのである。

 リハビリ施設へのアンケート

 では、実際のところ、どの程度の医療保険リハビリ施設が「みなし指定」を利用した通所リハを、通所リハ施設が「短時間」通所リハを実施するのか。京都府保険医協会では、改定内容が示された後の08年3月上旬に緊急アンケートを行った(アンケートの詳細については、グリーンぺーパー3月号で既報)。改定内容の全貌が明らかになる前ではあったが、医療機関側の「みなし指定」導入についての認知度、通所リハ施設側の「短時間実施区分」の導入の認知度は、ともに高かった。実に医療機関側は74%が、通所リハ施設側は97%が知っていた。その上で、医療機関側に「みなし指定」を利用して今以上の維持期リハビリ患者を受け入れるかどうかを尋ねたところ、「積極的に受け入れる」と答えたのはわずかに8%であった。通所リハ施設に「短時間」の通所リハを行うか尋ねたところ、「行う」と答えたのは、こちらもわずかに8%であった。

 これらの数字からは、「みなし指定」利用と、「短時間」通所リハが、一気に進むとは考えにくい。しかも、医療機関が通所リハを行うとなると、「みなし指定」としながらも、手続き上は、別に通所リハとしての施設基準を満たし「体制届出」を行うことが必要となっている。維持期の患者を受け入れる余裕が相当数あり、現在、報酬の低いリハビリの施設基準しか届出ができていないようなところでないと、幸い積極的な実施には乗り出しにくいのが現況のようである。

 維持期リハビリは医療保険で実施可能

 医療保険リハビリの担当者であれば、誰しも知っていることではあろうが、現行制度の下、すべての患者が、医療保険で維持期リハビリを実施することが可能である。介護保険のリハビリ施設と人員が不足している中、「リハビリの利用者が、医療保険から介護保険に移行しても、ニーズに沿ったサービスを継ぎ目なく一貫して受けることができる」ようにするためには、何も今回のような複雑な改定を行う必要は全くない。いわゆる「介護保険と医療保険との給付調整通知」を改定し、「同一の疾患等について、介護保険におけるリハビリを行った日から1カ月を経過した日以降は医療保険での算定は不可」という、医療保険リハビリと介護保険リハビリの併用を禁止する規定を削除すればいいだけのことである。これで患者は、介護保険利用開始後も、希望する施設でリハビリを実施することができるのである。

 今次改定の本当の狙い

 「給付調整通知」の改定という方法をとらず、「短時間」実施区分と「みなし指定」の導入という方法をとったのは、「継ぎ目なく一貫してリハビリが受けられるため」が本当の目的ではなく、現在医療保険を使って行っている維持期リハビリを、介護保険を使って実施させ、リハビリを実施する場所や内容はそのままに、保険の種類だけを変え、事実上、維持期リハビリを介護保険に移行させてしまおうというが本当の狙いではないか。来年度は診療報酬改定が控えている。維持期リハビリは介護保険で担うという現状を一定作っておき、診療報酬改定までに、介護保険への移行を進めさせておけば、それを疑問視する声も減り、疾患別リハビリの算定日数上限超の患者を“バッサリ”医療保険から切り離すことがより容易になるのである。

 維持期リハビリは本当に「介護」か

 今回の通所リハ等介護保険リハビリの改定内容からは、単なる介護報酬の改定にとどまらず、来年度の診療報酬改定、あるいは3年後の医療・介護のダブル改定を見据えた改定であることが読み取れる。まさに今、元来「医療」である維持期リハビリが、急性期・回復期から続く一連のリハビリテーションの流れから、保険制度上の都合により切り離され、「介護」に完全移行させられることへの是非を、我々医療者は問われているのである。

 (編集協力:熊本県保険医協会・土橋健一氏、図表は保団連『医療系介護報酬改定のポイント09年4月』より一部改変の上引用)

図表1〈通所リハビリテーション費(介護保険)と脳血管疾患等・運動器リハビリテーション料(医療保険)の比較表〉

図表2〈訪問リハビリテーション費(介護保険)と在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料(医療保険)の比較表〉

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