人体の不思議展 実行委が解散
二度と開催させない目標達す
日本医師会第XII次生命倫理懇談会(座長:高久史麿氏)は2月22日、「移植医療をめぐる生命倫理」答申をまとめた。答申の巻末に死後の人体の取り扱いという観点から、「人体の不思議展」は「遺体の扱いにおいて人の尊厳に反し、倫理的に認められない」とする見解を付記。3月8日の京都・産経両紙で、この部分に着目した報道が行われている。
この報道と前後して、「人体の不思議展」ホームページに、突如同展を終了すること、それに伴い同展実行委員会事務局を解散することが告知された。これにより京都展(2010年12月~11年1月)が文字通りの同展ラストランとなった。
協会および、協会も参加している「人体の不思議展」を考える京都ネットワークの目標は2点。1. 同展を京都では開催させないこと、2. 日本において二度と同展を開催させないこと、であった。
協会は京都展開催の中止を求め、関係各所に申し入れを行い、理事会においても声明を発表。協会独自で、この問題を取り上げた講演会の開催も行った。また、厚生労働省担当課と懇談を行い、プラストミック標本は「死体」であるとの見解を引き出した。
「人体の不思議展」を考える京都ネットワークにおいても、刑事告発や損害賠償請求を求める民事訴訟を通じ、同展の違法性を追求する運動を展開した。
その結果、京都地検は主催者側の故意を立証できないとして刑事告発を不起訴処分としたが、プラストミック標本は「死体」であること、さらには同展は死体解剖保存法の保存にあたり、許可なく同展を開催することは違法との見解を引き出すに至った。(本紙2814号既報)
さらに今回、同展実行委員会が事務局を解散させたことは、世論を巻き込み、大きな関心を集めたこの運動の大きな成果であり、ご支援・ご協力いただいた会員各位に感謝申し上げたい。
現在、刑事告訴については検察審査会へ申し立てを、また民事訴訟についても、棄却という判決を受け、控訴を行っている。京都ネットワークとして、この2点については、責任をもって最後まで見届けたいと考えているが、目標を達成することができたことを、まずはご報告申し上げる。
また、厚労省担当課との懇談にご尽力いただいた阿部知子議員をはじめ、「人体の不思議展」損害賠償請求事件について公正な判決を求める団体請願署名にご協力いただいた団体各位に心より感謝申し上げる。
「人体の不思議展」の問題を早くから訴え続け、協会が取り組むきっかけを与えていただいた末永氏のコメントを掲載する。
「人体の不思議展」の閉幕宣言は、運動の成果
福島県立医科大学講師 末永恵子
今年3月7日、突然、「人体の不思議展」の閉幕宣言が同展のwebサイト上でなされた。宣言の文章は、あたかも成功裡に終了したかのような表現であったが、同展への反対運動によって、展示が中止に追い込まれたというのが実態である。したがって、閉幕宣言は運動に対する敗北宣言でもある。
この状況を生んだ背景には、全国各地の反対運動に加えて、京都における運動のブレイクスルーがあったと思う。京都府保険医協会・京都府歯科保険医協会と京都民主医療機関連合会は、主催者や自治体に対する展示中止の要請、厚生労働省への問い合わせ、講演会の開催などを行い、組織を挙げて反対運動に取り組んだ。その、社会に対する発信力には、大きなものがあった。
また、「人体の不思議展を考える京都ネットワーク」の活動は、それまでの運動が触れてこなかった法律の壁に正面から挑戦するものであった。詳細は省略するが、刑事告発と損害賠償請求訴訟とを通して展示の違法性・非倫理性を訴えていった。現時点で、告発については嫌疑不十分で不起訴となったが、検察審査会への審査の申し立てを行っている。訴訟では、京都地裁は権利侵害を認めず、請求は棄却されたが、控訴した。
以上のような司法への訴えはマスコミ報道に取り上げられ、展示の非倫理性を世論に伝える効果を招いた。そこから社会の潮目も確実に変わっていった。
残された課題も多いが、運動の所期の目的である展示の中止が達成された。日本の社会が、死体の尊厳を冒す展示との決別に一歩踏み出したのである。そのことを素直に喜びたい。
最後に反対運動を一緒に闘ってきた皆様、運動をご支援くださった皆様に感謝申し上げたい。