京都府内の医療はいま/脳卒中の予防と診療

京都府内の医療はいま/脳卒中の予防と診療

 協会は「京都府提案への反論と地域医療提供体制への提言(案)」を現在、ホームページ上に公表しているが、これを取りまとめるにあたって、地区医師会や各分野の状況について聞き取りを行った。脳卒中については、京都第二赤十字病院の脳神経内科部長・山本康正氏に現状の問題点と改善すべき点について伺った。

府と府立医大の役割が重要

京都第二赤十字病院 脳神経内科部長 山本康正氏
京都第二赤十字病院 脳神経内科部長 山本康正氏

民間医療機関の努力だけでは…

 京都市内における脳卒中急性期の状況については、対応できる医療機関が多く、近隣へ直近搬送が原則になっており、地域ごとに開業医と病院との関係ができているので、阿吽の呼吸で搬入できているように思われる。いい意味で、官に頼らず、それぞれの医療機関に信頼して任せており、そこが連携しつつ動けているから、顕在化した問題になっていないのが現状ではないか。

 第二日赤では、救命センターで可能な限り患者を受けている。ただ、少ないケースではあるけれども、満床でどうにもならない場合は、受けてから入院が必要な場合は他院への転送を依頼することもある。そして、いくつかのリハビリ病院と連携パスが動いている。回復期や維持期との連携は比較的良く組織されている印象がある。府立医大リハビリ科のリーダーシップも大きい。

予防・診療の総合的戦略を

 しかし、京都府レベルでの脳卒中診療という観点で見ると、救急隊との関係では、救急隊は市、行政は府と、2段階になっているように感じられる。また、4疾病から府民を守るという観点から、もう少し公的なレベルで、脳卒中診療・予防について、総合的に組織化される必要があるのではないか。京都府がこの現状をどうみて、どうしようとしているのかが見えない。昨年、府でt-PAの現状調査などについての話し合いの場がもたれ、施設の公表がなされたが、府内の脳卒中診療について話が及ぶというところには至っていない。脳卒中診療や予防対策について提言をしようにも、するところがない。

 高齢化が進む中、寝たきりの最大の原因となるのが脳卒中。府として、府民の健康についてのグランドデザインを考えるべきではないか。

 脳卒中の予防は、高血圧、糖尿病、メタボリック症候群、慢性腎臓病などの生活習慣病と結びつけるようなことをすれば、相当なことまで踏み込んで予防戦略が可能である。それが個々の診察室や心ある開業医のレベルに止まっていて、京都府という地域社会の中で系統的なことができていない。

 そして、発症した場合には、どの施設がどういうレベルで受けているのかなど、地図をつくることもいいだろう。住民にとって、自分が倒れたらどこに行くかが描けるようでないと、安心できるとは言えない。

司令塔的な役割の存在が不可欠

 現状では、脳卒中を多数受け入れている病院だけで集まっても議論は進まない。府と公的な立場にある大学が先頭に立たないと、民間病院だけのシステムではうまくいかないのである。脳卒中はその特殊性として救急をオープンにしておかないといけないので、大学病院の構造上それが難しいのはわかるが、府の大学である府立医大などが、もう少し関心・責任を持つべきではないか。府民のための医療に何が必要かを考えてほしい。他府県の状況をみると、たとえ大学の脳外科や神経内科の講座が必ずしも脳卒中を専門としていなくても、司令塔のような働きをしているという印象がある。

 府と府立医大が府民の健康問題として、4疾病のひとつである脳卒中の予防と診療体制に積極的になれば、実際に多くの患者を診ている民間の現場の意識も変わるだろう。京都が長寿社会のモデルたり得るためにも、府や府立医大が脳卒中にもう少し力を入れてほしい。そうすれば、多くの関連病院が生きてくる。何より府民の恩恵が増すのである。

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