京都市/リハビリ行政に重大な転機
在り方検討専門分科会開く
1978年に開設された京都市身体障害者リハビリテーションセンターは、「身体障害者更生相談所」「附属病院」「障害者支援施設」「補装具製作施設」の4施設を有し、「一貫性のある総合的リハビリテーションサービス」(同センター案内パンフレットより)を実施する市直営の総合的医療・福祉施設である。 市は10月30日、京都市社会福祉審議会(委員長=森洋一京都府医師会長)宛に、リハビリテーション行政を取り巻く環境が大きく変わりつつある中、同センターをはじめ、市のリハビリテーション行政について、環境の変化に応じた新たな在り方を検討していく必要があると諮問した。諮問書の限りでは、「新たな在り方」が何を意味するかは判然としない。
「業務縮小」を京都新聞報じる
しかし、京都新聞(10月30日・夕刊)は「京都市・リハビリ業務縮小へ」と報じ、市当局が取材に対し、「リハビリ治療を行う民間病院が増え、公的に続ける必要があるのか」と同センターの従来機能の縮小方針を明確に述べている。さらに、更生相談所機能の拡充を図る一方、「病院の運営や障害者支援施設の民間移管などを含めた見直し」と踏み込んだ記述さえある(実際の諮問書ではそのような文言は確認できない)。
諮問を受け、12月11日に「第1回リハビリテーション行政の在り方検討専門分科会」が開催された。分科会委員は13年7月13日までの任期で、諮問に対して社会福祉審議会がまとめる答申に向け、専門的立場からの検討を行うという。
同審議会の障害福祉専門分科会委員から5人、老人福祉専門分科会委員から3人、特別委員6人が就任。会長に山田裕子・同志社大学社会学部教授と、副会長に加藤博史・龍谷大学短期大学部教授が選任された。
市は役割の再構築を強調
最初にリハビリセンター(以下、リハセンと略称)の伊藤次長より、市職員がまとめた「行政内部資料」として「京都市リハビリテーション調査研究会報告書〜今後のリハビリテーション行政のあり方〜」(11年12月)が報告された。
報告書は、リハビリテーションとは単なる機能回復訓練を指すのではなく、全人間的復権と定義した上で、市のリハビリ行政がリハセンを中心に展開されてきたこと。設立時のリハ黎明期に比べ、担う医療機関や事業所などの社会資源が充実してきたこと。その中で、リハセンは今や提供機関のひとつにすぎない状況と断じる。総合センター機能は低下し、厳しい財政状況の下、公共施設の役割は明確でなければならない。これから市が果たすべき公的責任・役割は何か、その中でリハセンが果たすべき役割は何かを再構築していく必要があると述べる。現状と課題としては、「障害者支援施設の利用者数は低位」「補装具製作実績は少ない」「市直営で病院を運営する政策的意義は希薄」としている。
また、府が高齢者施策として、市が障害者施策として地域リハを担うというのが、現状の構図。府は二次医療圏域に地域リハ支援センターを設置(京都市域では北区の京都地域医療学際研究所附属病院を指定)している。これに対し、地域リハは高齢者も障害者も一体的に推進されるべきであり、今後は市が両者の地域リハを推進する方向で府に提言することも視野にとの記述もある。
委員からは機能拡充の声が続出
リハセンの社会的役割は終わったのか?
ある委員から、リハセンが不採算であるのは今に始まったことではなく、市の報告書が経済的事由を持ち出している部分は削除すべき。「身体障害者更生相談所」だけを直営で残し、「附属病院」「障害者支援施設」「補装具製作施設」を廃止との市の方針は理解しているが、社会的役割を終えたから廃止するという方が市民は納得するのではないか、との趣旨で意見が出された。
これに対し、市からは報告書はあくまで行政内部の資料と説明。その上で、発足時から採算を無視してきたが、様相は変わっている。民間にできることはお願いしたい。あれもこれもはできないと述べた。
ここで会長が、この分科会は市の財政問題を重視して議論する場ではないと指摘。しかし、それに続く副会長の発言は、経費のことを前面に出さず、社会的役割を終えたということを強調すれば良いというものだった。続いて、副会長は「市民への啓発」ではなく「市民参画」の観点が必要と市報告書に意見を述べた。
このやりとりを受け、他の委員から、回復期リハには6カ月という上限があり、とりわけ介護保険対象にもならない人に対して、上限日数経過後どうやってリハを保障するか。地域の医師はリハセンにそういう重度の方を受け止めてもらっている。リハセンの役割は終わったといえず、むしろそういう患者を受け入れる機能こそレベルアップしてほしいとの趣旨で発言があった。
これを受け会長から、少数でも必要とされている人が存在しているということ。その人たちをどうするかということは、行政が考えるべきことだと思うとの趣旨でコメントがあった。
京都市はリハセンを十分に支えてきたのか?
また、委員からは、リハセンが脊髄損傷の患者を受け入れられない実情を知っているか。機能縮小ありきの議論はすべきでない。これまで職員から市に対し、何の声もなかったのか、と厳しい意見が当局に対して出された。しかし、ここで別の委員から、実際に経営面の数字が悪く、必ずしも公立でなく、民間でもできるという観点での議論をしてはどうかとの意見も出された。
これからのリハセン
続いて、障害当事者や父母の委員の方々を中心に、今後のリハセンの構想が相次いで語られた。子どもたちのリハも含めて対応できる総合的なリハビリセンターに発展させてはどうか。他の政令市の人たちと話しているとリハセンはうらやましがられる。
ここにくれば何とかなる、そんな施設になってほしい。京都市にはこんな素晴らしいセンターがあり、希望をもらえる、道がひらける、そんなセンターになってほしい。180日を超えても来ることのできる施設を目標にしてはどうかなど、ほとんどが積極的にリハセンを活用していく方向での発言だった。
医療者・患者の声を受け止めよ
次回は、1月中旬までに2回目の会合が持たれるという。市は論点整理・たたき台を出したいと述べる。市はこれまでも行政改革プランである「京プラン実施計画」(2012年3月)をはじめ、リハセンのあり方見直しを示唆していた。先の報告書の根底にも、従来機能を縮小したいとの意思が感じられる。今回の分科会は市の「縮小」方針に対し、出席した多くの委員からむしろ従来の機能も拡充し、さらに総合的な役割を果たしうるセンターにすべきだという意見が相次ぐ内容となった。今後、市がどのようなスタンスでこの問題に臨むのか、協会として注視していきたい。市はここ数年、保健所統合・センター化や京都市急病診療所廃止等自らの保健医療システムを縮小してきた。自治体として、市民のリハビリテーション施策にどのような役割を果たすべきか、真摯な対応が望まれる。
(文責・協会事務局)