京都市 急病診療所条例を廃止 協会は緊急要請するも市会で可決  PDF

京都市 急病診療所条例を廃止 協会は緊急要請するも市会で可決

 京都市は市会9月議会に「京都市急病診療所条例を廃止する条例案」を提出、9月29日の本会議で可決した。京都市急病診療所は1972年3月5日、「休日急病眼科診療所」として京都市立病院内に開設。以来、機能拡充しながら、京都市自身が公的な責任において市内の初期救急体制を担い続けてきた重要な施設である。現在は財団法人京都市急病診療所が指定管理者となり、公設民営施設として管理・運営している。廃止条例可決により同診療所は廃止、その後、社団法人京都府医師会が新京都府医師会館に設置する診療所において同法人に業務を委託する。

 京都市は条例廃止の趣旨を「京都市急病診療所等において受診できる診療科目がそれぞれの診療所において限られていること並びに京都市急病診療所等の建物および医療機器の老朽化が進んでいる」と述べる。その上で京都府医師会が当該業務を実施することにより、「当該診療所において総合的な診療を受けることができるようにするとともに、市民の利便性の向上を図る」とした。

 京都府医師会への委託により、複数の診療科目が1カ所で受診可能となり、尚かつ小児科の深夜帯診療や内科の土曜・日曜・祝日の準深夜帯診療も実施予定とされる。今後の予定は11年3月1日に京都市急病診等を廃止し、新京都府医師会館での業務を開始。同月31日をもって財団法人を解散し、4月より完全に府医師会に委託するという。

 条例案は共産党を除く各党の賛成で可決されたが、「従来の急病診療所を統合して、京都府医師会に委託するに当たっては、目的に沿った医療体制を整備し、利用者や家族などの利便性を向上させるよう、鋭意努力すること」との付帯決議も同時に可決された。

緊急要請書で東・西診療所の存続を要請

 府医師会への委託に伴い、初期救急機能の拡充が図られることは歓迎すべきことである。しかし、危惧すべきは、それが京都市当局の公的責任後退と抱き合わせであることである。

 協会は9月21日、緊急に要請書を門川大作京都市長宛に提出した。

 要請書では、特に、廃止される3診療所のうち、京都市休日急病内科小児科東診療所(以下、東診療所)と京都市休日急病内科西診療所(同、西診療所)について、元々地理的事情による存在意義の大きい東西の診療所の地域住民には、特に深夜帯、新急病診療所が小児科診療を開始してもその恩恵を得ることは難しい。まして、午後時間帯は廃止であり、完全に施策後退である。交通の利便性や機能充実と引き換えの廃止であるとの市の主張は、あくまで市内中心部の住民に対してのみ有効であり、拙速な廃止は回避するよう求めた。加えて、運営主体が変更になる中、これまで以上に京都市の公的な関与や市民の意見が反映される運営体制の構築が必要であることも指摘した。

 要請の席では、急病診療所条例廃止後、京都市急病診療所は「民設民営」となり「公的医療機関」ではなくなるのか。将来にわたり公的責任を果たし得ない運営形態になるのではと問題提起した。

公的責任に基づく保健・医療政策を

 昨年、09年度は新型インフルエンザ流行により、急病診療所の受診者数は08年度に較べ、大きく増加した。東西診療所でも同様で、東診療所の小児科受診者数は年間1934人(前年度1641人)、内科受診者数は1073人(前年度853人)、西診療所内科も2698人(同2010人)。特に感染症の拡大期には、とりわけ幼い子どもたちの保護者が、一刻も早い受診を望むことは自然であり、急病診療所は、そうした患者・家族の不安に応える機能もある。同時に、救急告示病院はもとより、開業医への夜間・休日の負担軽減の役割も果たしている。それが行政責任で実施されていることの意味は決して軽くない。

 要請の際、対応した京都市保健福祉部医務審査課の担当者は、公費を入れる以上、京都市は委託元であり、実施主体としての責任があるとの見解を述べた。しかし、この委託関係が市の責任において将来にわたり担保されるのかの不安は拭えない。

 この間、京都市は行政区保健所の「支所化」や京都市立病院の独立行政法人化、市立看護短大の廃止等、地方自治体の命である保健・医療行政への公的な関与を縮小させる施策を連発している。今回の急病診療所廃止もその一環である。

 こうした事態の背景には、京都市が保健・医療政策のビジョンを持っておらず、なおかつ財政難に苦しんでいる実情がある。

 条例は可決したが、協会は引き続き、市の救急医療提供体制のあり方からあらためて同診療所の意義を京都市自身が再認識することを求めていく。

協会が存続求める東診療所(山科区)と西診療所(右京区)
協会が存続求める東診療所(山科区)と西診療所(右京区)

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