事故調のいう「予期せぬ?死亡」に備えて(9)  PDF

事故調のいう「予期せぬ?死亡」に備えて(9)

EBMに基づかない医師の一言で裁判が不利に…

(60歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 頸部や四肢等が麻痺するとのことで他院の紹介により、頚椎骨軟骨症治療の目的で入院した。C3−C7にかけて全身麻酔下で頚椎前方固定術を施行した。麻酔はセボフレンを使用。手術は麻酔を開始して、約4時間で無事終了したが、帰室後、呼吸停止となり意識レベル300(JCS)となった。更に心停止を来たし、看護師が2人で心マッサージを施行して、5分後には心拍再開したが再度心停止を来した。再度の心マッサージで心拍は再開されたが、医師により気管切開が施行された。その後も患者の状態は一進一退で数日後に死亡した。なお、患者は糖尿病患者であった。

 遺族は喀痰吸引のための再挿管の困難が予見されるのだから、十分な治療態勢を採るべきところを怠ったとして訴訟を申し立てた。

 医療機関側としては、患者死亡時にCT撮影や病理解剖を強く勧めたが拒否されたので、死因が確定できなかった。死亡診断書には急性呼吸不全(窒息)とやむを得ず記載したが、喀痰によって窒息死した可能性は極めて低く、可能性としては脳出血が最も高いと考えられる。脳出血であれば、患者の救命は不可能であり、患者容態が急変してからの救命処置も挿管が困難であり、やや時間がかかったことは認めるが過誤と判断できる要素はない。更に手術に関しても問題は認められない。したがって医療過誤は無いと主張した。 

 紛争発生から解決まで約1年7カ月間要した。

〈問題点〉

 医療機関側の主張と治療経過のデータでは、当初は医療機関側に過誤は認められなかった。患者側の主張する喀痰の問題は、医学的に考えると死因とは考え難い。確定はできないが脳出血による呼吸停止による死亡と推定された。ところが、訴訟後に誤嚥性肺炎であることを当該医師が発言しているのをテープに録音されていて、それが証拠とされた為に、医療機関側が不利となった経緯があった。

〈解決方法〉

 医療機関側は一部過誤を認めざるを得なくなり、和解金を支払い裁判が和解で終結した。

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