事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(7)  PDF

事故調のいう「予期せぬ死亡?」に備えて(7)

インフォームド・コンセントと合併症

(50歳代後半男性)

〈事故の概要と経過〉

 胸部つかえ感を自覚してA医療機関を受診。そこで上部消化管内視鏡検査の結果、食道癌の診断で当該医療機関に紹介され、数週間後に消化器センター内科に入院となった。その後、外科へ転科し、医師からの説明の後、根治的手術を施行。食道癌はStage2であった。手術に要した時間は5時間26分で出血量は256であり、胸部ドレーンを設置した。数日後に患者が胸部創部の疼痛を訴えたため、鎮痛剤を使用して痛みは軽減したが翌日に再度胸部疼痛が出現した。再び鎮痛剤を投与したが効果が認められず、血液検査やレントゲン撮影を施行したところ胸腔内吻合部に縫合不全が発症したことが判明した。しかしながら、バイタルサインは安定しており、胸水の貯留が僅かで腹腔内への食道、胃管内容物の流出は胸部ドレーンで十分に体外排泄されていることなどから、炎症は発症初期であり保存的治療で対処可能と判断した。再び疼痛が出現したため、胸部レントゲンを施行。右胸水の貯留を認めた。経鼻胃管チューブを患者が自己抜去したことにより内容物の胸腔への漏出が増大しており、胸部ドレーンを追加するとともに右胸部アスピレーションキットを挿入。チューブを胸壁に固定しているときに全身チアノーゼが出現して呼吸停止を来したが心肺蘇生術を施行して約1時間30分後に心拍動が再開された。それ以降集中治療室で管理したが、状態は改善せずに死亡した。

 遺族は、主に以下の点を不服として、訴訟を申し立てた。

 (1)手術ミスにより縫合不全が発症した。

 (2)胸部痛の対処方法が不適切であった。

 (3)ドレーン挿入時の注意を怠った。

 医療機関側としては、手術に関してインフォームド・コンセントは取られており、根治的手術が可能との判断も誤りはなく手技上も問題ない。なお、縫合不全は、食道癌手術の場合、4〜15%の確率で発症するもので不可抗力である。胸部痛の対応に関しては、まず鎮痛剤を投与しており、その後は諸検査を施行して縫合不全を確認しており、その後1時間毎に全身状態をチェックしているので問題ない。ドレーン挿入に関しても手技上の問題点は認められないとして医療過誤はなかったと主張。なお、患者側に遠慮から解剖は勧められなかったとのこと。

 紛争発生から解決まで約2年5カ月間要した。

〈問題点〉

 保存療法の選択肢がなかったわけではないが、我が国ではスタンダードとは言えず、食道癌に対して手術を施行する適応は十分にあったと判断できよう。また、当該医師は食道癌の手術を60件以上経験して縫合不全を来した経験は3例とのことで、手技上の未熟さを指摘することもできないと思われる。インフォームド・コンセントに関しては成立していなかったからこそ、訴訟に至ったと推測されるが、合併症の危険性等、一般的な説明はしてありカルテ記載もあることから説明義務違反を問われることもないと考えられた。

〈解決方法〉

 医療機関側は、最後まで無責を主張し続けたが、裁判所の提示した和解額が訴額の数%であったこともあり和解に応じて終結した。

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