事例もとに事故の傾向を解説 カルテ記載の重要性など強調  PDF

事例もとに事故の傾向を解説 カルテ記載の重要性など強調

 消化器診療内容向上会が4月4日、京都平安ホテルで開催された。参加者は68人。協会の林一資副理事長が、「消化器関連の医療事故の傾向と対策—医療事故調の動向にもふれて」と題して講演した。その後、活発に質疑応答が行われた。

消化器診療内容向上会レポート

 万が一、医事紛争になった場合に医師を守るのはカルテ記載である。(1)記載内容が不十分(2)記載が漏れている(3)誤って記載している(4)虚偽の記載がある㈭改ざんされている—等のカルテは、医師の不利益となる。なお、気になる症例の患者に対して「次回○月○日に来院して下さい」や「CTを撮りましょう」等と言った場合、そのことは必ずカルテに記載すること。これを記載していないために、有責となる場合がある。
 協会に報告された医事紛争は減少傾向にあるが、そのうち消化管内視鏡による穿孔事例は少数(0〜5件/年)とはいえ、なくなってはいない。日本消化器内視鏡学会の調査(第5回)でも、2003〜07年の調査期間中の検査件数は1256万3287件、当該期間中の偶発症数は7242件(0・057%)であった。機種別検査件数と偶発症数は別表の通りである。
 現実に発生した、消化器内視鏡偶発症における医事紛争4事例での解決の問題点は、(1)充分に注意して検査、治療を行ったにもかかわらず偶発症が起きた際の有責の程度の判断(2)録画、録音の有用性(3)当初有責でないと判断されても調停になると説明義務違反等で和解に向けて解決金が必要になる場合がある(4)偶発症全てが有責になれば、医療行為は委縮してしまう—ということである。
 採血時の正中神経損傷による医事紛争が増加しており、内科系医療機関では注意が必要。(1)採血時は「標準採血法ガイドライン」を遵守すること(2)患者が少しでも痛みを訴えた場合は直ちに中止し、抜針すること(3)正中神経損傷、麻痺、CRPS等の診断は極めて慎重に行うべきであり、特に後医となる場合、診断書は容易に書かないこと—。
 医療事故調査制度については、2014年6月、改正医療法が成立。病院、診療所の管理者が予期せぬ患者の死亡または死産を第三者機関に報告し、その第三者機関が確認、分析、調査する制度として法制化された。3月20日に検討会報告書がまとめられたが、院内事故調査結果を遺族へ説明する方法をめぐり、医療提供者側と患者側の意見が対立。報告書では、調査報告書は「遺族が希望する形で説明するよう努める」こととされた。委員には患者側に立つ弁護士もおり、報告書は訴訟の場に提出されることも当然あり得るという立場だが、医療過誤の案件を増やしたい弁護士サイドの思惑も見て取れる。
 最後に、紛争を少しでも少なくするためには、(1)インシデントやヒヤリハットのレポートを作成し、活用すること、偶発症対策のガイドラインを作成すること(2)症例を充分に検討し、吟味すること(3)画一的な承諾書をもらうだけではなく、患者・家族に対し十分なインフォームドコンセントを得られるよう説明し、納得されたことをカルテに必ず記載すること(4)画像(できれば動画)はMO、CD—Rなどに一定期間保存すること—が重要である、と締めくくった。

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