主張/IT化は誰のためか!?

主張/IT化は誰のためか!?

 自動車新規登録におけるワンストップサービスというものをご存知だろうか。現在10都府県で稼動しているだけだが、新車を購入した際、住民基本台帳カードの情報をネットでシステムに送ることで、これまで運輸支局や警察署など複数の役所での手続が必要だった申請や取得が、一括してできるというものである。

 これには現在まで実に六十数億円の開発費が投入されたという。しかし先頃の報道でご存知の方もおられると思うが、国土交通省はこのオンラインシステム利用率を54%と発表していたが、会計検査院の調べで実際は0・7%に過ぎないことが判明した。国土交通省は販売業者がデータを紙ではなく、磁気ディスクなどで運輸支局などに持ってきた件数をオンライン申請として計上していたのである。加えて会計検査院はこのシステムでは標章やナンバープレートの受け取りには複数の役所に行かなければならず、「実際上、ワンストップになっていない」と指摘している。

 このシステムはオンラインレセプト請求システムとよく似ている。セキュリティのための個人認証、申請の事務手続きだけでなく、手数料支払などの金銭の動きもすべてネット上で処理するように設計されているからである。しかし始まって間がないとしても、先に書いたような状況であるし、何より担当している国土交通省が、実際はオンラインでない件数まで強引に寄せ集めて集計しなければならなかったほど、利用者が少なかったわけである。

 税理士事務所に任せていると気づきにくいがe-Taxシステムも同様である。これを利用して確定申告を個人レベルで行おうとすれば、カードリーダの購入(3000円程度)だけでなく、有料で電子証明書の取得(1000円程度)が必要である。それだけならまだしもe-Taxで送信できない添付書類(領収書など)は、税務署へ送付または直接持参することとなっており、結局税務署に足を運ぶか郵送の必要がある。納税者はそれを利用した場合、07年分または08年分で5000円の特別控除があるのみである。

 これらは、森首相の時に打ち上げられたe-Japan構想や、電子政府の一環と考えられるが、目的達成のための手段が今や主役となってしまい、手段を普及させることが目的となってしまっている。手段を提供する業界は大きく潤うのかもしれないが、手段が目的でない実際の利用者や設置者にとっては、手間も出費も変わらないか増大するということであれば、推進する意味がなく、廃止も検討されなければならない。

 実際インターネットを通じての旅券電子申請システム(これも電子証明書とカードリーダが必要)は廃止された。数県で実施してみたもののシステム維持に多額の費用がかかる上、利用者が少なく、旅券1冊当たりの経費が約1600万円にも上ったためである。システムの維持経費は約2年で実に21億円であったといわれる。

 レセプトオンライン化でも、審査機関だけでなく通信網を担う企業体に莫大な費用が投入されたと思うが、かつて財務省が旅券電子申請システムに廃止の提言をしたことや、会計監査院が自動車新規登録システムに「費用対効果を検証するべきだ」と指摘したことには留意するべきである。

【京都保険医新聞第2664号_2008年11月10日_1面】

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