主張/財政論が先行する制度では医療も介護も未来はない

主張/財政論が先行する制度では医療も介護も未来はない

 2006年度「介護給付費実態調査結果の概況」(厚労省老健局作成)が発表された。これより前に出された「06年度介護給付費実態調査結果の概況」(厚労省統計情報部作成)では、年間実受給者数が10万2800人も減少したことが指摘されており、注目すべきことだと思うのだが、老健局は、なぜかこの問題について触れていない。

 しかし、この老健局作成データにおいても、65歳以上の人口は対前年比89万人、3・4%増で、要介護・要支援認定者数も8万人、1・8%増加しているにも関わらず、被保険者一人当たりの給付費は05年度に比べて5000円、2・2%減っている。

 介護保険がスタートした00年以来、ずっと伸び続けて来た一人当たり給付費が初のマイナスを記録したのである。原因はなにか。給付を受ける前提である要介護認定の基準が変わり、要介護1以上をもらえた人が減ったからである。

 なぜ減ったのか。06年4月に介護保険制度が改定され、要介護1以下の軽度者に対して、利用制限が実施されたからである。

 06年度介護給付費について、国は、予算段階では6兆4622億円と試算していた。65歳以上の被保険者は、それをもとに計算された保険料、総額1兆2554億円(対前年度2785億円増、28・5%増)を負担した。それが前述の制度見直し(利用制限)によって、実際には5兆8743億円しか給付されず、約6000億円が節約される結果になったのである。この年の国庫支出金について、精算後、国は、1068億円の返戻を受けたことになっているが、利用が抑制されてお金が余り、国は多いに喜んでいるのだろうか。

 介護の現場の大変さはこのところマスコミも度々特集を組んで大きく伝えている。独居や老人世帯が増えていく中、今まで受けていたサービスが削られると、たちまち日々の生活が回らなくなる。衣食住の確保ができなくなって脱水、循環不全、脳卒中、あるいは体調不良、転倒、骨折。あっという間に医療対応になる事例に事欠かない。医療費削減を目指して作られた制度が、本当にその目的を達しているのだろうか。

 医療崩壊が叫ばれ、医師たちがきつい医療現場から立ち去っているのと同じことが介護の世界にも起っている。介護従事者が急速に減っているのを実感する。3K職場の典型で、低賃金が常態化している情けない実態が人々の常識となり、若者の職業選択肢から外されつつある。大学や専門学校の介護関係コースは軒並み定員割れと聞いている。

 何のための制度なのか。保険料は強制的に取られるのに、介護して欲しい時にしてもらえない。うんと悪くなってサービス受給を認めてもらった時には、してくれる人がいない。

 問題は、この仕組みをそっくり「後期高齢者医療制度」が受け継いでいることである。「老人保健法」を「医療費適正化」を目的にする法律に変えてしまった過ちを直ちに修正しないと私たちに未来はない。財政論が先行する社会保障制度など、土台が間違っている。

【京都保険医新聞第2648号_2008年7月21日_1面】

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