主張/紛争予防は日本の医療を守る砦
さきごろ京都府保険医協会主催の医療安全シンポジウムが開かれた。テーマは「応召義務、対応に苦慮する患者たち」で、会員や従業員が多数詰めかけ、病院事務、看護師、弁護士、法学家の話に熱心に耳を傾けた。最後に質疑応答がなされ、例年以上の盛り上がりをみせた。
応召義務違反には罰則がないことなど興味深い話もあった。患者側の要求には理不尽なものもあるが、多くは無理解や理解不足が原因である、これは医療のあらゆる現場でみられることである。高度に発達し専門化した医療技術に関しては、専門外であれば我々にもにわかに理解することは難しく、また医療費の明細書ひとつとっても患者さんにはわかりづらい管理費などがあり、時々質問を受けることがある。われわれ協会の医療安全対策部会で医事紛争対応に当たっていると、医療に対する理解不足が壁となってなかなか先に進まないもどかしさを感じることが往々にしてある。医事紛争が長期化することは患者、医療側双方にとって大変な負担である。幸いにもここ8年前から、それまで増加していた医事紛争の件数は減少しているが、長期化する不況、地震や原発などに象徴される社会不安が続けば、一転医事紛争が増加することも警戒しなければならない。
これまでも協会は医事紛争対応と平衡して紛争予防についても活動してきた。今後は患者側にどうすれば医療の現状を理解してもらえるかを模索したい。しかし、医療側に研修などを通じて予防策を講じることは比較的容易だが、患者側にどのようにして医療安全について理解をしてもらうかはなかなか難しい問題である。そこで各病院の医療安全担当者から、患者側との交渉でどのようなことが理解されずに苦労しているのか、現場の声を聞かせてもらうことからはじめたい。このような地道な活動が医事紛争予防に役立つことは、保険医協会医療安全部会の50年にわたる歴史が証明している。医事紛争では医療側、患者側は永久に解りあえないとの声もあるが、人手不足や業務の増加と複雑化で悲鳴を上げている医療現場で、また再び医事紛争増加の時代が招来すれば、医療崩壊はさらに加速する。医療安全を通じて、日本の医療を守ることは保険医協会の責務と考える。