主張/社会保障憲章・基本法を武器に新たな福祉国家の展望を  PDF

主張/社会保障憲章・基本法を武器に新たな福祉国家の展望を

 さる10月24日の午後、東京全電通労働会館で「新しい福祉国家の姿を展望する―社会保障憲章・基本法の提起を通じて」と銘打ったシンポジウムが開催された。詳細は後日報告されるはずであり、ぜひご参照いただきたいが、大まかな流れにつきお伝えしておきたい。

 4人のパネリストのトップバッターとして登場した京都・つくし法律事務所の竹下義樹弁護士は、社会保障を取り巻く情勢として、自殺者の高止まり、餓死者の存在、生活保護受給者の増加、そして障がい者の社会保障からの締め出しといった状況が進んできており、生活保護や障害者自立支援を巡る裁判が後を絶たず、社会保障の充実が今ほど求められる時代はないと締めくくられた。二番目の金沢大学教授の井上英夫氏は、本来社会保障は最高位に位置づけられる人権でなければならない、また国際的には社会保障をめぐって日本国憲法を超える豊かな発展が勝ち取られてきており、これらを日本で反映していくために憲章と基本法が必要と述べた。これを受ける形で、次に都留文科大学教授の後藤道夫氏と一橋大学名誉教授の渡辺治氏がそれぞれ社会保障憲章と基本法につき概要と重点部分を説明した。両者合わせるとA4用紙70ページを超す大作であり要約できる代物ではないが、あえてそのエッセンスをまとめるとすれば、社会保障の充実は人々の強い願いであり、日本社会の在り方を大きく転換する必要があること、さらに福祉国家型の大きな政府による社会保障の抜本的拡大が必要で、そのために必要な原理原則を憲章で明らかにし、裁判の規範ならびに関連諸法・諸制度見直しの基準とするために基本法を提起した。憲章では国と自治体の責任のみならず企業の社会保障にはたす責任にも言及されており、また社会保障が今や量のみならず質的にも充実を求められる、などになろうか。

 私たち開業医の視点から見て、社会保障の充実はきわめて重大な問題である。そもそも日常医療活動がよって立つ医療保障は社会保障の大きな部分を占める。実際に医療保険の数次にわたる改悪は患者さんを私たちから遠ざけ、地域住民が健康な日々を送ることを困難にしてきている。私たち保険医にとって無視できることではない。いうまでもなくこの基本法の礎となったのは京都府保険医協会が前理事長の世代から取り組んできたものである。その大志を大切にする一方で、この憲章と基本法をどう活用するかが問われている。社会的な合意なくして基本法の成立はない。高齢社会、貧困化の進行、こうした状況の下、社会保障を充実せよの国民的な大きなうねりを作っていくために医療者からも声を上げていくことが求められている。(次号に報道)

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