主張/日本専門医機構の自立と自律  PDF

主張/日本専門医機構の自立と自律

 2017年度から開始される新専門医制度の準備が進んでいる。基幹施設を中心にしたプログラムの作成が進行中である。来年度の早い時期に日本専門医機構(以下、機構)が各プログラムを認定し、研修医に公知する予定だ。制度の準備は遅れ気味である。現在の学会専門医の処遇、総合診療専門医とかかりつけ医との関連など不明な点が多い。なにより議論過程が不透明であり、全体としてなし崩しの感が否めない。地域医療を支えている臨床医からの意見聴取は、事実上なしだ。医療の質向上を医学界の自立と自律性によって担保することを理念とし、機構は政府および学会から独立するものとされた。しかし発足して1年半でこの高邁な理想は置き去りにされた感がある。

 今年の夏以降、新専門医制度についての説明会が各都道府県(京都、奈良、滋賀は合同)で行われた。厚生労働省と都道府県が主催し、機構が説明するという構図だ。都道府県には医師確保と地域医療計画が念頭にある。政府お手盛りの制度であることは明らかだ。厚生労働省は、医師の地域偏在是正を大義名分にして保険医の数と質を規制しようとしている。目的は公的医療費削減である。新専門医制度では、すべての医師が専門医になるとされているため、この制度によって臨床医の把握が可能となる。都道府県ごとに19の基本診療領域の専門医定数を割り出し、各研修プログラムの定数に振り分ければ、医師の配置(人数と就業場所)をコントロールできるのだ。厚労省は、今年度の病床機能報告項目に医師数を入れようとしたが、反対にあって引き下げた経緯もある。

 機構は学会からも独立するとされた。学会が任意に決めた専門医制度では、国民からみてわかりにくいという理由からだ。制度設計には医療界を挙げて取り組む必要があった。しかし、機構は独自に制度を作るのではなく、総合診療を除く基本領域に対応する18学会を社員に加えて具体化を進めた。このため、多くの研修プログラムが大学医局中心となっている。四病院団体協議会(日本病院会、日本精神科病院協会、日本医療法人協会、全日病)は、医局の医師人事支配が強まると危惧を表明し、医局から独立した運営をしている病院への配慮を求める要望を出すとしている。

 臨床研修必須化に次いで、専門研修制度も事実上義務化されることになった。医師を国の統制下に置く方向だ。機構の自律なしには、経済・財政一体改革(アベノミクス)による国民皆保険制度の空洞化にリンクする。医師制度の大転換と言ってよい。地域医療の質向上のために機構のあり方を含めて、新専門医制度を問い返さなければならない。

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