主張/我々が担う「かかりつけ医」とは?  PDF

主張/我々が担う「かかりつけ医」とは?

 このところ、あちこちで「かかりつけ医」という言葉が出てくる。名称に関しては、各界で少しずつニュアンスが違っていて、「かかりつけ医」の他に「総合診療医」「家庭医」「主治医」という言葉があり、紛らわしい。それは新専門医制度にも反映し、厚労省の「専門医の在り方に関する検討会」の中で「総合診療医」の専門医は「総合診療専門医」で、これを基本領域の19番目に加えた。この検討会で、日医は「総合医」の機能は「かかりつけ医」機能そのものであり、「かかりつけ医」は深い専門性を持ちながら幅広い診療能力で地域に応えており、地域の開業医はこの機能を当然担っている、と主張している。

 厚労大臣直轄の有識者会議がまとめた「保健医療2035」では、患者にとって最適な医療への道を開く「ゲートオープナー」機能をもつ、総合診療を行うかかりつけ医を今後10年間程度で全国に配置すると提言している。座長の渋谷健司氏は「患者の全身、上から下まで完璧な診断をして、すべてに対応する人ではなく、その患者にとって何が一番価値あることか、何が本当に必要であるかを判断して、門戸を広く、きちんと道を開いていく。『ゲートオープナー』で、プライマリ・ケアの機能をより進めていくということを打ち出した」と述べている。

 前述のように、日医の掲げる「かかりつけ医」と厚労省の掲げる「かかりつけ医」の意味合いは若干違っている。どちらが正しいとかではないが、地域で患者さんと向き合う我々には少なからず混乱がある。

 先日、このようなケースがあった。20年ほど私が外来で診ている80歳代の女性が、足の震えを訴えられたが、明らかな固縮、歩行障害などを認めず、パーキンソン病を疑いながらも確診に至らず経過をみることにした。ところが、進行性に歩行障害が出現し家族の勧めで神経内科を受診され、パーキンソン病の診断を受け、「もっと早く専門医を受診したらよかったのに」ということを言われたこともあり、なんとなくお互い気まずい思いを抱くに至った。私は神経内科は専門ではないとしても、かかりつけ医としてその方の全身を診て自分の技量で専門医に紹介するタイミングを計るというスタンスで問題はないと思う。これが日医のかかりつけ医の立場だと考える。それに対し、厚労省の「ゲートオープナー」としてのかかりつけ医は、はじめの段階で神経内科医に紹介をするというスタンスなのだろう。これから更なる高齢社会を迎えるにあたり、何でも初めの段階であちこちに紹介する「ゲートオープナー」のかかりつけ医よりも、臨床経験で身につけた力量で全人的に診る医療の方が、実臨床に沿っているように思われる。日本の医療の良さの一つは、専門性の高い開業医が地域医療を担っていることだと言われる。良い部分は残していきたいものである。

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