主張/地域偏在解消と専門医の質の向上? 総合診療専門医の真の狙いは  PDF

主張/地域偏在解消と専門医の質の向上? 総合診療専門医の真の狙いは

 
 総合診療専門医が、新専門医制度における19番目の基本領域の専門医として位置付けられた。現在研修プログラムの作成中で案が公開されている。2017年から専門研修が始まり20年には総合診療専門医が生まれる予定だ。
 「専門医の在り方に関する検討会」最終報告書(厚労省13年4月)を受けて一気に動き出した経緯だ。総合的な診療能力を有する医師の専門性を評価し、新たな専門医の仕組みに位置づけることにしたのが総合診療専門医である。急速な高齢化と少子化という2025年問題が背景にある。「特定の臓器や疾患に限定することなく、幅広い視野で、全人的に患者を診る医師」と定義され、「日常的に頻度が高い疾病(Common disease)への対応、その他幅広い領域の疾病や障害への初期対応と、必要に応じた継続医療を提供する」ことが期待されている。
 これまで、地域の病院や診療所の医師がかかりつけ医として地域医療を支えてきた。国民皆保険の土台といってもよい。医療介護総合確保法推進、地域包括ケアづくり(川上から川下への一体改革)のために新たに総合診療医を打ち出すことによって、この医療提供体制を見直そうというものではないか。大義名分は、地域偏在の解消と「専門医の質」の向上である。
 医師不足による医療崩壊への対処として、2008年度から医学部入学定員が増やされてきた。14年度には9069人である。07年度よりも1444人多く、20年の卒業時には地域枠関連の学生が全体の16%を占めることになる。
 一般社団法人日本専門医機構(以下、専門医機構)の理事で総合診療専門医に関する委員会を担当する吉村博邦氏(地域医療振興協会顧問、北里大学名誉教授)は、昨年10月の規制改革会議の健康・医療ワーキング・グループ(第10回)ヒアリングで「毎年1300人を超える地域枠の学生が誕生する予定。総合診療医の中核になる」と報告している。地域枠の卒業生への期待は大きいが、給付抑制の一翼を担わされる可能性は否定できない。
 現在、専門医機構において急ピッチで総合専門医を含む19の基本診療領域での研修プログラムづくりが、進められている。実質は学会主導のように見える。既存の専門医資格の継続や更新についてはほとんどの医師に関わることであるにもかかわらず、プロセスがわかりにくく学会会員の意見聴取や討論の機会が、ほとんどないのが実情だ。
 総合診療専門医については、日医の「かかりつけ医」との関連、可能となるサブスペシャリティ専門医資格取得などについて不明な点が多い。プログラム案では学校医や産業医の活動が含まれており、今後、総合専門医資格とリンクするのかも危惧されるところだ。「地域を診る」という視点は評価できる。WHOの健康の定義「身体的、精神的、社会的に良好な状態」を意識したのだと思われる。
 しかし、協会が行っている厚生行政への批判や提言、医師としての社会的な発言のように、いのちの問題に対して社会へ積極的に関与していく視点を拡充することも大切なのではないか。アベノミクス的翼賛体制に組み込まれて、医療を成長の道具におとしめる役割を担うことを拒否し、地域で患者と一緒に暮らしていく開業医の歴史を、今後も大切にしたい。

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