主張/国民医療の災いTPP
日本がTPPに加入した場合、国民皆保険制度や医療提供体制にどのような影響がもたらされるのであろうか。協会は、本年3月15日に発効した韓米FTAから浮かび上がるTPP参加の問題を探るため韓国医療視察を行った。
韓米FTAが韓国の医療保険制度に及ぼす影響としては、「独立的再審機構」による薬価・医療機器決定による価格の高値安定、「認可―特許連携」によるジェネリック医薬品の発売停止、経済自由区域での営利病院の許容等はいずれも韓国全体の医療費の上昇に繋がるであろう。さらに公的健康保険の領域に食い込みはじめている民間医療保険商品に対する公的規制が「民間医療保険の規制不可」により事実上不可能となり、健康保険制度の発展の障害になる。そして最大の懸念事項である「ISD条項」については、韓国政府は医療保険制度を例外とするとしているが、この条項の対象を判断するのは米国の投資家であり、米国主導の国際仲裁機構である。これらは韓国の国民保険制度に大きな影響を与え、最終的に患者(国民)の負担増につながるであろう。FTA、TPPのような自由貿易協定は貿易での関税障壁だけでなく、社会保障制度をはじめとする公的サービス分野における非関税障壁が主な対象であることに警鐘を鳴らしたい。
日本の場合は、国内に大手製薬メーカーもあり、現状では国内で多くの薬の自給が可能である。しかしTPPに参入すれば米国製薬会社の特許薬の価格などは高値が維持されてしまう。昨年の米国商務省「外国貿易障壁報告書」では、「日本の医療などは過度な規制の貿易障壁」「外国事業者の営利病院の参入が制限されている」と決めつけている。国の政策や制度、法律にまで異議申し立てできるTPPに参加すれば、公的医療保険を含む政策改変要求を続けてきた米国の思惑どおりに、日本の医療制度が変えられてしまうことになる。
日本国憲法の人権条項は、各国間の「経済的損失による被害」の訴えに効力が及ばず、TPPは憲法を超える法律となることが一番懸念されるのである。薬価や医療機器の高騰を招き、医師の技術料に代表される薬剤等以外の医療費は縮小の方向にしかベクトルが向かわない。混合診療が導入され、民間保険利用なしには、充分な医療が受けられず、結果として医療格差が大きく拡大してしまう。医療への営利企業参入は、患者のための医療から投資家のための医療に変貌するのである。TPPは単なる関税撤廃条約ではなくその国の政策をもすっかり変えてしまうものであり、日本にとって医療分野がこうむる影響は大きく、国民皆保険の空洞化を招く危険なものなのである。