主張/危うい被曝防御  PDF

主張/危うい被曝防御

 福島原発事故を巡る問題の一つは、今後、原子力発電をどうしていくのか、脱却あるいは存続というエネルギー政策の根幹にかかわる問題であり、もう一つの問題は、事故はなぜ起こったのか、何が起こり、いま何が起こりつつあり、今後どうなるのかという問題である。今回はその中でも、医療に従事するものにとって無関心でいられない、被曝に関連した問題を取り上げてみたい。

 まず、被曝を考える基礎となるデータ収集の不足と情報公開の遅れ(例えば放射性物質拡散予測=緊急時「迅速」放射能影響予測システムの情報は、ドイツなどの関係機関の予測の方が、日本でもインターネットを通じて遙かに早く公開されていた)。また公開されたデータの海外や民間研究者との差、データとともに発表されるいたずらに安全側へ引き寄せるようなコメントから伺われる判断の偏りの恐れ。これらが複合して、住民避難や食品などの安全性判断に遅れや危うさを感じざるを得ない。

 また健康被害の判断基準になる被曝線量限度の極めて危うい設定は許すわけにいかない。原発作業員の緊急時被曝線量限度を事故後、年100mシーベルトから250mシーベルトに(きちんとした検討手続を無視して―小佐古元内閣官房参与・東大大学院教授・放射線安全学)引き上げた。労働者不足のためといわれる。そして更に問題なのは子どもに対する被曝線量限度にかかわる校庭放射線量限度を年20mシーベルトに決定したことである。小佐古教授は「年1mシーベルトで運用すべきで、学問上も、ヒューマニズムとしても受け入れがたい」と内閣参与を辞任している。政府は国際放射線防護委員会(ICRP)勧告(大人子どもを問わず年1―20mシーベルトの最高値)に従ったという。まずICRPは核兵器と原発の開発に関与してきており、原子力産業に有利になる偏向を持つとの批判もある(欧州放射線リスク委員会)。またICRPの基準はアメリカ、ロシア、ヨーロッパなどの医師、科学者からの疑問と批判が相次いでいる。ICRPは事故後、日本に住民被曝限度引き上げも勧告した。「基準設定により政府は法的には責任を逃れる。しかし道徳的責任からは決して逃れることはできない」(ドイツ・オットーハーグ放射線研究所)。

*補足:原発警戒立ち入り禁止区域に無断で入ったら罰則があるという。それならば、そんな地域を作り出してしまった人にはどんな罰則が…。

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