主張/医療安全対策は今のうちに 医事紛争増加の兆し
協会に報告される医事紛争件数は、2003年度(103件)をピークに、13年度(29件)まで10年間減少し続けていた。主な要因のひとつとして、07年度ごろに頻繁に報道された「医療崩壊」により、国民に医療の現場の窮状が広く知らされたことと、各医療機関の医療安全対策の充実、協会の継続的な啓発活動が実を結んだと考えられるが、今年度の14年度(2015年5月末まで)は、恐らく前年度を超える医事紛争件数となることが予想されている。大幅な増加とはならないとしても、決して好ましい傾向ではない。
5年前にも、あくまで統計上の推測としてではあるが、17年度ごろに医事紛争が増加する可能性を示唆したことがある。これは、医事紛争の状況がおよそ10年ごとに激変するというデータからの予想であったが、17年度がその年度に当たる。すでに減少傾向は底をついていると考えると、次にくるのは遺憾ながら激増が予測される。
また、医療界の周辺でも医療事故調査制度の設立など不安材料もある。この事故調設立を機会に医事紛争が増加するのでは、との危惧も会員から聞こえている。事故調については協会としても、会員の日常診療に弊害とならないように、その対策を検討している最中であるが楽観視はできないであろう。
ここで、会員各位にお願いしたいことは、1990年代半ばに我々が初めて経験した医事紛争の急増が再びくる前に、できるだけの医療安全対策を一層講じてほしいということである。会員各位には、もしかすると合点がいかないかもしれないが、今が医事紛争が最も少ない時代であり、比較的医療安全対策を講じる精神的・時間的猶予があるということである。近い将来にくるかもしれない医事紛争増大に少しでも備えをしていただきたい。
そのために、協会は努力を惜しまない。今まで以上に緊張感を持って、各会員に対して医療安全対策のお手伝いをしていく所存である。協会の医療安全対策部会では、会員向けに「医療安全研修会」や「医療安全担当者スクール」を適時開催させていただいている。刊行物(事例で見る医療安全対策の心得・医事紛争事例集・医療安全研修DVD等)も充実していると自負しているので、今後とも協会のご利用をお待ちしている。