主張/医療事故調査では医療実施担当者にも個別に弁護士を!  PDF

主張/医療事故調査では医療実施担当者にも個別に弁護士を!

 
 医療事故調査制度について、訴訟事例を例示し、関連する論点を述べる。
 事例は、29歳女性が帝王切開創痕部に癒着を伴う全前置胎盤のため、福島県立O病院産婦人科にて、2004年12月17日(29週6日)腰椎麻酔下で、K医師(96年5月医師免許)執刀にて帝王切開術が午後2時26分開始され、37分3000gの女児を娩出した。胎盤の剥離に臍帯を引っ張ったが子宮が反転して持ち上がり、右手指を胎盤と子宮壁の間に入れ剥離し、癒着する部分はクーパー鋏刀で切離し50分に胎盤を娩出した。45分ヘスパンダー500mlを投与開始し、にじみ出るような出血が続き、55分総出血量は2555ml(羊水含む)、血圧50弱/30弱で、3時ころ濃厚赤血球200ml×5単位を投与開始し、3時10分には総出血量7675ml、4時20分に同20単位が到着し、35分子宮摘出術を開始し、40分血圧約120/60弱で、その後下降し始めたが、5時30分頃摘出した。6時0分には血圧60弱/約30、脈拍140、5分に心室頻拍を併発し、7時1分死亡した。総出血量は2万445mlであった。
 県の医療事故調査委員会は、鋏刀で癒着胎盤を剥離しての出血性ショック死で輸血の遅れと子宮摘出の遅れなど、過誤として賠償するとした(福島民友新聞平成17・3・31)。
 これを契機に捜査され、翌06年2月、K医師は逮捕・勾留され、3月、女児娩出後に胎盤の癒着を認識したが、剥離を中止しなければ子宮の剥離面から大量出血して生命の危険があり、剥離にクーパーを用い子宮摘出手術等に移行しなかった過失により大量出血させ死亡させたとして、起訴された。
 裁判所は、「臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反した者には刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどのものがその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の、一般性あるいは通有性を具備」する必要があり、「医療行為を中止する義務には、・・・相当数の根拠となる臨床症例、あるいは対比すべき類似性のある臨床症例の提示が必要不可欠」として、一部の医学文献、一鑑定だけでは立証が尽くされず、癒着胎盤の認識により直ちに剥離中止と子宮摘出術等への移行が医学的準則であったとは認められず、胎盤剥離の継続は注意義務違反とならないとして、無罪を言い渡した(医師法21条違反に関しては割愛)(福島地判平成20・9・17、確定、LLI/DB判例秘書)。
 医療事故調査では、県、管理者など開設者側と執刀医など医療実施当事者側とで過失などの違法性評価と損害賠償や刑事罰などへの有責性評価が相違し、両者間で利益・損害が抵触する場合、実施当事者にも別に弁護士との相談が要る。
 医師賠償責任保険は、過失責任主義に基づき、保険金支払いには要件上過失を要し、これが刑事過失の評価に連動する危険もあり慎重な認定作業が求められる。刑事事件に関わる弁護士費用・訴訟費用(1年間500万円まで)の特約付帯もあり、相談されたい。

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