主張/医療事故とその周辺の諸問題

主張/医療事故とその周辺の諸問題

 昨年8月の福島県立大野病院事件の無罪判決に続き、本年3月の東京女子医大事件でも、業務上過失致死罪に問われた医師に無罪判決が言い渡された。結果的には医療界にとって朗報ではあったが、起訴された当該医師またその家族にとっては、長い苦しみと悲しみの年月であったに違いない。

 医療事故での医師の逮捕という異例の事態を招いた事の発端は、いずれの事件も「事故の原因究明」の名目で設置された院内事故調査委員会の報告書であり、それに医師の過失を示唆する記述があったからである。いずれも学内や病院関係者から構成された内部調査委員会であったため専門性、公平性に欠いたものとなってしまい、専門家や第三者機関を導入したものの遅きに失した感がある。この2つの事件は、医療事故の原因を医学的に調査することの難しさ、また目的が曖昧な、安易な医療事故調査の危険性を改めて浮き彫りにしたと同時に、この先も医療事故が刑事手続きに発展することを懸念させるものである。

 折しも、医療事故の原因調査のための第三者機関、“医療事故調”についての議論が進んでいるが、第三者機関の必要性と同時に、院内での調査の必要性は多くの医療者が指摘するところである。しかし、今回の事故ではこの院内調査会が、うまく機能しなかったことは皮肉なことである。医療事故調の議論も膠着状態であり、医師法21条に基づく異状死の届け出をどう取り扱うか、組織の利害などを超えて、いかに医学的に中立・公正な調査を行うか、その目的や結果の扱いをどうするかなど問題は山積である。現在も異例の長期にわたってパブリックコメントを募集している状況からも問題の難しさが窺える。

 また、5月にスタートする裁判員制度に合わせて、「検察審査会」の権限が強化される。検察審査会は一般市民11人が検察の不起訴判断の妥当性を審査するが、これにより、いわゆる「市民感覚」による判断が検察官を法的に拘束するようになる。ここでも懸念されるのが、医療関連の事件・事故への影響であり、専門家の間では医療訴訟が増えるとの声もきかれる。

 いずれにしても、現在の医療事故をめぐる諸問題を解決する妙案は、しばらくは望めそうもない。少しでも医療事故を少なくするための最善の努力をし、もし不幸にして起きてしまった場合には、真摯に受け止め、真実を包み隠さず明らかにすることが早期解決の道と思われる。

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