中村教授とオンコ社、朝日新聞社を提訴/2億円の賠償求める
がんペプチドワクチンの臨床試験に関する記事によって名誉を傷つけられたとして、中村祐輔・東京大医科学研究所教授とオンコセラピー・サイエンス(角田卓也社長、川崎市)は12月8日、朝日新聞社(秋山耿太郎社長)と、記事を執筆した編集委員と論説委員を相手取り、計2億円の損害賠償と謝罪広告を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。
焦点となっているのは、朝日新聞の10月15日付朝刊の記事と翌16日付朝刊の社説。15日付の記事では、医科学研究所付属病院で実施されたワクチンの臨床試験で、被験者に起きた消化管出血が「重篤な有害事象」と院内で報告されたのに、同種のワクチンを使っているほかの病院に伝えられていなかったと問題視した。16日付の社説では「被験者の安全や人権を脅かしかねない問題が明らかになった」と記した。
記事では、ワクチンの開発者として中村氏の名が記されている。記事が指摘した臨床試験で用いられたのは、血管新生を抑えるVEGFR1由来のペプチドワクチンだが、特許公報によると、発明者は医科研の別の教授だ。出願人はオンコ社と東京大。朝日新聞は11月30日付朝刊で「中村教授は医科研を中心にして、がんペプチドワクチンの探索やその実用化を推進するプロセスにおいて主導的な役割を果たしておられます。こうした趣旨、意味から、記事では、中村教授についてペプチドの『開発者』と記しました」と説明した。一方、中村教授によると、VEGFR1由来ワクチンについて、朝日新聞記者から開発者か否かを問われたことはないという。
オンコ社は、記事中で「治験前の臨床試験にも深く関与している」とされた。しかし、角田氏によると、記事で指摘された臨床試験に社としてかかわった事実はないという。
会見では、弁護士が記事について「中村氏がオンコ社と癒着し、金銭目的でワクチンの臨床研究を取り仕切っているかのような印象を与える」と指摘。中村氏も「重篤な有害事象を私が隠蔽し、利益を得ようとしているという歪曲をわざとやっているとしか考えられない」と話した。角田氏は「患者さんが心配されるような記事を、不正確な状態で出すのはいかがなものか」と述べた。
朝日新聞社広報部の話:当該記事は臨床試験制度の問題点を被験者保護の観点から医科研病院の事例を通じて指摘したもので、確かな取材に基づいています。記事の狙いなどについては、11月10日付朝刊「臨床試験を考える」、11月30日付朝刊「ワクチン臨床試験報道 患者 こう受け止めた」で改めて報じました。医療サイト・アピタルには医科研代理人からの書面に反論する回答書などを掲載しています。(12/9MEDIFAXより)