シンポジウム
現場のリアリティが反映されない国構想
尊厳保障型のケア実現
地域包括ケアシンポジウムの冒頭、全体司会の垣田副理事長から、開催に至る経過を報告、その上で関理事長が主催者挨拶を行った。シンポジウムは3部構成で行い、全体コーディネーターを検討委員会メンバーである岡祐司氏(佛教大学教授)が担った。
岡崎祐司氏(佛教大学教授)
第1部は介護保険「改正」と国の考える「地域包括ケアシステム」と題して、今回の介護保険制度「改正」(2012年4月実施)の柱である同システムの問題点を、現場の視点から整理し、地域ケア体制構築に求められるものとは何かを検討した。
認知症ケア排除を指摘
荒牧敦子氏(公益社団法人認知症の人と家族の会京都府支部代表)は、介護家族当事者の立場から、今回の介護保険制度「改正」が「認知症ケア」を打ち出しながら、実態はますます認知症の患者が使いにくく、排除する制度へ変えられようとしていることを指摘。その上で、介護家族支援の制度化を求める3つの点を提起。[1]レスパイト(介護サービス充実)、[2]心のケア、[3]介護をしながらも働き続けられる就労の在り方―が必要とした。
施設ケアのあり方とは
廣末利弥氏(社会福祉法人七野会・理事長)は、地域包括ケアシステムで強調される「住まい」問題と、施設ケアの役割、サービス付き高齢者住宅をめぐる問題点を指摘。その上で、住まいを語るならとして、特別養護老人ホームの今後について老人福祉法に立ち返った利用の在り方の必要性、住み慣れた地域へのケアハウス設置を求めた。そして、誰もが無理のない負担で、尊厳ある人生を送ることのできる制度の実現を訴えた。
自治体の役割再生を
北尾勝美氏(元・京都市福祉事務所ケースワーカー、社会福祉法人健光園)は、京都市の福祉事務所ケースワーカーとして、長年にわたり高齢者福祉に取り組んできた事例を紹介しながら、国のすすめる「地域包括ケアシステム」の内容と問題点を指摘。そして、高齢者のいる世帯の実態は一様ではなく、家族の抱える問題等、複合的なニーズが存在することを紹介し、こうしたケースに対応するためにも、現状の地域包括支援センターを支援する「基幹型支援センター」や「コミュニティ・ソーシャルワーカー」の設置を実現し、自治体の公的な役割を再生させることが必要であるとした。 第2部は「地域でケアを必要とする人たちの今」と題して、国がすすめる介護保険の枠内では対応できない、本来地域ケアの対象とすべき人たちの実態を報告。
子どもたちの在宅ケア
塚本忠司氏(医師・西京)は、地域で子どもたちの在宅ケアの担い手が少ない実態を紹介。また、子どもたちも含めた若年者のケア対象者は、高齢者の制度における「地域包括支援センター」のような役割を担う資源が全体に乏しく、情報も不十分だと指摘した。また、「親が子を看る介護」の難しさを事例を通じて紹介し、本来、地域ケアを語るならば、こうした人たちのことを考えて施策を検討すべきと提起した。
精神障害者の実情
月川奈々氏(京都市北部精神障害者地域生活支援センターらしく施設長)は、京都市における精神に障害のある人たちをめぐる実情について、事例を交えて紹介した。同時に、障害者自立支援法の廃止を実現し、現在当事者も参加して「障害者総合福祉法」制定に向けたせめぎ合いが進んでいることを紹介。その実現を目指す必要性が語られた。
重なり合うケアへ
岡本晃明氏(京都新聞記者)は、取材を通じて出会い、実際にその支援へ参加することになったALS患者さんの独居在宅生活支援を通じ発言。障害者福祉制度を使い、在宅独居の生活を送っている方が実際存在することを紹介。現在ある障害者福祉制度と介護保険制度の縦割り状況を克服し、「重なり合うケア」の実現が必要とした。
ケアで包摂する体制を
第3部では、岡氏が、6氏の発言を踏まえて講演。「地域包括ケア」から人をケアで包摂できる「尊厳保障型ケア」体制の確立へ、と題した講演では、6人の発言に見られる「リアリティ」が、実際に国が設計する制度や、社会保障改革の構想にまったく反映されない事態を指摘。「尊厳保障型のケア」実現の必要性を述べ、当面の課題として、[1]ニーズ把握と相談援助実践の強化、[2]生活介護の重要性に基づく制度の確立、[3]居住保障、[4]住民福祉を住民自治の視点からの再興、[5]地域医療保障、[6]新自由主義改革に対抗する自治体政策―を提起した。
シンポジウムの最後は、渡邉理事が閉会挨拶を行い、終了した。
発言する荒牧・廣末・北尾・塚本・月川・岡本の6氏(左から)