シリーズ/環境問題を考える(91)
自然に学べ!バイオミメティクス
環境対策委員長 武田信英
バイオミメティクスという言葉をご存知ですか?
地球上の全ての生物は、生存競争を勝ち抜き現存しています。それは悠久の時をかけて、徐々にDNAを変化させ得られた生存のための最適化に他なりません。この自然の持つ優れた機能・形態・順応性・運動特性などを模倣し、人間生活に活用することをバイオミメティクス(生態模倣)と呼び、今後に必須なエネルギー削減の大きなヒントを内包しています。これを上手く利用することにより、エネルギー的に最小のInputで最大のOutputが期待できるのです。
例えば、高速走行する新幹線の形状(特に500型など)は、先端部はカワセミ(鳥類)のクチバシ、そしてパンタグラフはフクロウの風切り羽を模した物であり、車体そのものにもハニカム構造(蜂の巣の六角形)が使われています。これらは空気抵抗・騒音や車体重量の軽減に大きく寄与し、年間では億単位にも及ぶ電力節減にもなっているとのことです。松ぼっくりの暖かくなると鱗片を開き、寒くなると閉じるという性質を模した繊維もまもなく実用化されようとしています。これは明らかに空調費用節減=電力の節減になるものでしょう。その他、すでに実用化されたものとして、オナモミやヌスビトハギ(所謂ひっつき虫)の種子の形状→マジックテープ(ベルクロ)、蓮の葉の微細構造→撥水性素材、オワンクラゲの発光タンパク質→医学領域への応用(ノーベル賞受賞で有名)、シルクタンパク質のUV―A・Bの遮断性能や中性脂肪の吸着機能→衣服・医療系応用、かたつむりの殻の微細構造→汚れないキッチンシンクや建物外壁材。将来的には、モルフォ蝶などの光り輝く羽の光学特性→ITや通信技術への応用(フォトニクス)、魚の鱗の構造・機能→航空機などの翼への応用(morphing airplane wing)、クモヒトデの視覚器官→照明やセンサーや誘導システムへの応用(microlens array)、海綿の生成する天然グラスファイバー→光通信への応用、脳の分子生物学的検討→有機(バイオ)コンピュータへの応用―などなど枚挙に暇がありません。
これら自然の英知を謙虚にかつ積極的に受け入れることにより、来るべき破局を限りなく先送りしたいものです。自然との共生なしには、人類の未来はあり得ないのです! 数百万種とも言われる地球生物種の一種に過ぎない人類のみの急激な進化は、他種の進化を妨げ絶滅を呼ぶような、地球の生態系を狂わせる歪な進化であり、未来を創れない誤った進化ではないでしょうか?