シリーズ環境問題を考える(125)  PDF

シリーズ環境問題を考える(125)

新しい農薬ネオニコチノイドによる汚染(1)
 「鳥がまた帰ってくると、ああ春が来たな、と思う。でも、朝早く起きても、鳥の鳴き声がしない。それでいて、春だけがやってくる—アメリカでは、こんなことが珍しくなくなってきた」(レイチェル・カーソン著『沈黙の春』、「そして、鳥は鳴かず」より)。彼女が1962年、『沈黙の春』で農薬汚染を中心に、環境問題を提起して以来、半世紀あまりが過ぎました。今や、経済成長、科学・技術の発展とともに人間活動の結果、生物多様性の消失、森林の破壊・砂漠化、地球温暖化、資源の涸渇、放射能や化学物質による環境汚染など、アメリカのみでなく、地球ぐるみの環境悪化が進み、地球上のすべての生き物に絶滅の危機の可能性を与えています。
 農薬問題や農薬による環境汚染は、カーソンの時代を経て、農薬の種類や系統、毒性を変えて持続しています。日本では、戦後、アメリカから輸入されたDDTやBHCなど有機塩素系殺虫剤が使用されはじめ、合成農薬の本格的使用が始まりました。有機塩素系は、病害虫以外にも毒性が強く、難分解、蓄積性のため、環境汚染が問題となり、1970年頃国内外で、ほとんど使用禁止となりました。代わって開発されたのが、昆虫の神経を冒すアセチルコリン分解酵素阻害剤である有機リン系の殺虫剤です。種類・生産量ともに、現行では最も多く、人体への毒性が強いことが指摘されています。その他ピレスロイド系、カーバメイト系なども開発されていますが、近年、有機リン系の代替として登場してきたのが、ネオニコチノイド系(以下、ネオニコ系)で、世界中で使用量が急増しています。
 ネオニコチノイドは、ニコチン類似構造を持ち、昆虫のアセチルコリン受容体に作用して、低い濃度で殺虫します。水溶性、浸透性、残効性(効果が長続きする)があり、熱、紫外線に強いのが特徴です。日本では、1990年代から使用が始まり、「クロチアニジン」はダントツ(住友化学・農業用)、フルスウィング(芝用)、ポンチョ、「イミダクロプリド」はアドマイヤーなどの商品名で、合計7種類が120以上の国で販売されています。 
 ネオニコ系農薬は幅広い害虫に効果があるため、多くの国でミツバチの大量死の原因になっています。日本でも各地でミツバチが大量死しており、イチゴやメロンなど果樹に受粉するミツバチが全国で不足して問題になっています。科学誌『ネイチャー』掲載のオランダ研究グループの報告によると、ネオニコチノイド濃度が高い場所では、野鳥が減少していて、減少の原因は餌にしている昆虫の減少だけでなく、昆虫に含まれているネオニコチノイドが鳥の体内に蓄積し、影響を及ぼしているのではないかとしています。したがって、EUでは厳しい使用制限だけでなく、昨年12月からイミダクロプリドを含む3種類のネオニコ系農薬の使用を全域で、2年間原則使用禁止にしました。
 10年前の2004年に、群馬県で松食い虫による松枯れの防除のために、ネオニコ系農薬のアセタミプリドが空中散布され、78人が体調不良を訴え、「青山内科小児科医院」を受診したことがきっかけで、青山美子医師と東京女子医科大学の平久美子医師はネオニコ系農薬の人体への影響について、10年以上も調査を続け、国際会議などでも発表しています。昨年6月にも、群馬県で無人ヘリコプターによるゴルフ場へのネオニコ系農薬の空中散布で、住民が被害を受けています。お二人の発表によれば、ネオニコ系農薬の亜急性吸入中毒として、発熱、頭痛、吐き気、咳、めまい、動悸、不整脈、頻脈や筋れん縮、全身倦怠感、記憶障害などの症状が、散布終了後約半日から3日後に起こり、数日間続くとされています。また、農薬が残留した野菜、果物、緑茶を連続または大量摂取した人にも、発熱、頭痛、胸部症状、腹痛、筋肉痛、ふるえ、心電図異常、記憶障害などが起こっています。(環境対策委員・山本 昭郎)

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