シリーズ環境問題を考える(120)
被曝—20mSv批判
ヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)勧告=年間最大許容線量は0・1mSvよりも低く維持されるべきであると勧告する。健康に対する権利・国連グローバー特別報告=避難区域・被曝線量の限度に関する国家の計画を、最新の科学的な証拠に基づき、リスク対経済効果の立場ではなく、人権を基礎において策定し、年間被曝線量を1mSv以下に低減すること。
2013年11月原子力規制委員会は、福島原発事故による汚染地域への「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」を発表したが、これは放射線防護と住民の人権などに対し大きな問題を含んでいる。
まず、委員会の低線量被曝の評価に関する認識は、最近の国際的理解—100mSv以下でも明らかな線量依存性の健康リスクの増加が認められ、過剰な放射線被曝は少なければ少ないほどよいという原則からずれている。
また原発事故に伴う住民避難の基準は、ECRRが強く批判する国際放射線防護委員会(ICRP)勧告によるが、それですら、汚染が残る地域での居住を選択した場合の基準は1〜20mSvに抑え、さらに居住が長期にわたるならば、可能な限り低い基準を設定し、線量低減のための最大限の努力を継続することが前提と明記されている。このように年間20mSvは緊急時の一時的指標でしかなく、帰還可能な水準として示されたものではない。
さらに住民への個人線量計の導入は、その技術的な特性から被曝の過小評価につながる恐れ、被曝の多寡が個人の責任に転嫁される恐れ、「被曝した個人」の特定・公開などさまざまな社会的問題を生み出す恐れもある。
そして帰還を考える上で何よりも必要なのは(紙面の都合で次の機会に譲らざるを得ないが)、被曝に関する判断に必要な最新で正確な情報の公開・提供とその理解を助ける方策の提供、必要にして充分な広範・長期に及ぶ健康調査・管理の確立と実施、被曝・帰還に関する積極的な住民参加による意思決定の仕組みなどであり、線量基準を決めればすむ問題では決してない。
(政策部会理事・飯田哲夫)