シリーズ環境問題を考える(92)危険な宇宙ゴミ
環境対策委員 山本昭郎
いつの間に、こんなにたくさんの“宇宙ゴミ”が増えたのでしょうか。1957年ソ連邦が史上初めて打ち上げた人工衛星「スプートニク」以来、人類は約50年にわたって、小さなボルトから宇宙ステーション丸ごとまで、宇宙空間に多くのものを捨ててきました。その多くは大気中を落下するうち燃え尽きて消滅しますが、大きめの“ゴミ”は宇宙飛行士や宇宙ステーション、作動中の人工衛星と衝突するリスクをもたらします。
今年の3月12日に、国際宇宙ステーション(ISS)に“宇宙ゴミ”が衝突するおそれがあったため、滞在中の3人の乗組員が緊急脱出装置へ一時避難したとの発表がありました。幸い、“宇宙ゴミ”は通過し、衝突を免れました。その一月前の2月12日には、米国の通信衛星イリジウム33号が機能停止中だったロシアの軍事通信衛星と衝突し、少なくとも500個以上の“宇宙ゴミ”が発生したと報道されています。
“宇宙ゴミ”の多くは人工衛星が破砕されて生じ、地表から300〜400kmの低軌道では秒速で7〜8km/s、3万6千kmの静止軌道では秒速3km/sと非常に高速で移動しています。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、“宇宙ゴミ”の破壊力はすさまじく、直径10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまい、5〜10mmのものと衝突するのは大砲で撃たれるのと等しいとされています。
各国は様々な目的で宇宙ロケットを打ち上げ、人工衛星を軌道上に乗せることを競ってきました。また、特にアメリカとロシアは、宇宙原子力発電システムや宇宙兵器に多額の投資をし、多くの“宇宙ゴミ”を産出させ、宇宙や大気を汚染してきました。過去数十年でロシアは30以上の原子炉を打ち上げ、NASAはプルトニウム238を用いた発電システムを装備した宇宙船を30年間で25基打ち上げました。ロシアの宇宙原子炉事故は78年、96年に、アメリカの場合は64年に大きな事故を起こしていて、いずれもプルトニウム238(半減期87・7年、アルファ線を放出し、プルトニウム239の280倍も発ガン性が高い)が宇宙と地球上にばらまかれました。アメリカもロシアも、これまでの宇宙計画での事故発生率は15%に上っています。
宇宙計画の軍事化で、NASAが太陽光発電でなく原子力発電を主張する1つの理由は、軍が宇宙核兵器に熱心であるからだとされています。レーザー光線兵器、粒子線兵器、その他を含むスター・ウォーズの中で、そのいくつかには動力源で原子力が必要です。また宇宙での推進力に原子熱ロケットを用いる技術を開発中で、ロシアはすでに原子力エンジンに使用可能な強力な燃料棒を開発したとされています。これにより、これまでのロケットで1年かかるとされていた火星への旅が、半分の時間で済むと説明されています。
“宇宙ゴミ”がこれらのすでに打ち上げられた原子炉や発電装置に衝突すれば、どのようなことが宇宙空間に起こるでしょうか。ただでさえ大量の宇宙放射線が飛び交う中、人工放射線がさらに加わり、宇宙飛行士やこれからの宇宙旅行者にとって宇宙での被曝はさらに深刻になる可能性があります。
また、宇宙ロケットやスペースシャトルで用いられる固体燃料は、成層圏に塩素原子を放出します。塩素はオゾン分子と結びつきオゾン層を破壊します。成層圏のオゾンが1%減少すれば、皮膚ガンは4〜6%増加します。たとえばスペースシャトルは、1回の打ち上げで240tの濃縮した塩酸を排出します。89年に科学者たちは、NASAが固体燃料ロケット装置を用いて年に10基打ち上げを続ければ、05年までにオゾン層が10%破壊されると予測しました。しかし、軍と民間の実際の打ち上げ回数は、その予測が行われて以来大幅に増加しています。
日本では「宇宙基本法」が08年5月に成立しました。各国が軍事衛星を打ち上げ、宇宙開発競争を繰り広げている現在、国際的には国連で5本ありますが、79年の月協定を最後に拘束力を持つ条約は採択されていません。国連の下で各国が早急に、「宇宙空間平和利用」条約、「宇宙空間環境」条約を締結し、宇宙空間の軍事目的の利用を禁止し、ゴミや環境汚染物質を出した国の責任で処理、環境保全に努めることが重要と考えます。また、地上での核兵器廃絶運動と連動して宇宙での核兵器禁止、軍事利用反対運動をすすめることも大切です。
(参考文献:ヘレン・カディコット著『狂気の核武装大国アメリカ』)