シリーズ 環境問題を考える(88)
保団連公害環境対策部員
京都府歯科保険医協会理事 平田高士
CO2だけではない温室効果ガス
地球温暖化の話題が日常的になるにつれ、私たちはすぐにCO2がその原因の全てであるように錯覚してしまいます。ところが温室効果ガスの1つであるメタンはなんとCO2の21倍の温室効果を持っています。そのメタンガスの大気中への排出量が温暖化によって加速度的に増えているのです。地球上に排出されるメタンガスは、主に牛や羊などの呼吸やゲップだけで25%を超えます。その他、肥料、天然ガスや水田、ごみの埋め立て、化石燃料の燃焼などで年に2億5千万トンが放出されていますが、そのうち4分の1〜3分の1は北極圏から排出されているのです。地中にはメタンを生産、あるいは消費する微生物が存在しますが、温暖化で北極の永久凍土が解凍すると、低酸素で水分を多く含む土壌が生まれます。これはメタンを産み出す微生物が好む環境なのです。メタンを消費する微生物の多くは、高緯度地方以外の酸素が豊富で水はけの良い土に繁殖しますが、最近の調査では、北極圏の湖は重要なメタン排出源だと判明しました。なぜなら北極圏の20〜30%は湖によって占められており、永久凍土が解けるとサーモカルストと呼ばれる地形を作り出し、それが崩壊し、地盤沈下してできたサーモカルストでは新しい湖が出現したり、これまであった湖が拡大したりするのです。また湿地帯や窪地が形成される場合もあり、永久凍土が急ピッチで解凍し、土の表層部分や湖の温度が上昇すれば、メタン排出の劇的な増加が起こります。最近の調査では、アラスカやカナダ、北部スカンジナビアで、地面が湿った状態の地域で永久凍土の周縁が解凍し、後退していることが分かりました。これはその地域全体でのメタン排出増に直接結びつくのです。北部シベリアではサーモカルスト湖が数、面積ともに確実に増えています。
地球上に存在するメタンには、膨大な量の炭素が含まれています。その量は石炭、石油、天然ガスに含まれる総量を凌駕し、その大部分はメタンハイドレートと呼ばれる氷状の物質に封印されています。メタンハイドレートは温度が上昇し、圧力が減少すると不安定化し、メタンとなって大気中に放出され強力な温室効果ガスとなります。その後次第に大気中の酸素と反応し、CO2と水に分解される。つまりメタンハイドレートから放出されるメタンは、最終的には化石燃料と同様、大気中にCO2として蓄積されるわけです。
地球の温暖化は地球に住む生命体にとって重大な危機です。アメリカやヨーロッパなどの先進国では国を挙げて温暖化政策に取り組んでいます。すっかり取り残された日本の政府や産業界はこのまま環境後進国として位置づけられてしまうのでしょうか。