シリーズ 環境問題を考える(121)  PDF

シリーズ 環境問題を考える(121)

種子から考える未来

 最近の植物の種子は外国産が多いと聞いていたので、ホームセンターに出かけ家庭菜園用の種子を3種類手に取ってみた。九条太ネギはサカタのタネであったが、生産地南アフリカ、ホーム桃太郎(完熟トマト)はアタリヤ農園・生産地タイ、小松菜はタキイ種苗・生産地ニュージーランドで、いずれも日本で栽培されている野菜の種子の生産地は外国であった。種子の採取は、品種の純粋性を保つために花粉が飛んでこないような広い場所で行われるため、国内では求めにくいという理由であるが、なんといっても最大の理由は種子生産の企業化である。新品種を保護するために1961年UPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約)が作られた。日本は1982年に加盟、その後遺伝子組み換え作物が登場し、UPOVが改正され、新品種を開発した者の権利が強化され、種子も特許になることが可能になった。そのため、世界中で企業が先を争い、種子の独占をめざし、多国籍企業の種子支配が進行した。

 09年時点で、モンサント社(米)27%、デュポン社(米)17%、シンジェンタ社(スイス)9%の3社で、世界の種子市場の53%を占めている。日本のサカタは9位で市場占有率は2%にすぎない。私たちの知らない間に、アグロバイオ企業による独占が進み、私たちの食料や農業はこれらの企業の手に握られているといって過言でない事態である。遺伝子組み換え(GM)種子販売では、モンサント社は世界のシェア90%を占めるトップ企業である。GM種子は特許で保護されているため、農家が種子取りをして、翌年に播くことは特許侵害となり、高額の賠償金を払わされる。最近では、「ターミネーター技術(自殺する種子)」を開発し、2代目の種子が発芽しないようにして、農家が毎年種子を買わざるを得ないような仕組みを作っている。

 アメリカのロックフェラー企業はモンサント社やカーギル社を中心に、アグリビジネスと呼ばれる世界の食糧支配を企ててきた。08年2月、ロックフェラー財団とマイクロソフト社の巨額の儲けを基盤に作られたビル&メリンダ・ゲイツ財団、ノルウェー政府の三者の結束の下、ノルウェー領の永久凍土の島・スピッツベルゲン島に、地球上の種子を冷凍保存する世界最大の種子貯蔵庫が完成し、操業を開始している。種子は、地球上の人類が膨大な時間と手間をかけ、何千、何万という品種を守り育ててきたものである。これを、最近では、グローバル・アグロバイオ企業が握り、勝手に横取りして、遺伝子組み換えを施し、「特許権」をたてに莫大な利益をあげながら、世界農業の支配の道具にしてきた。さらに、世界種子貯蔵庫を通じて、グローバル巨大企業が人類の農業・食糧を左右する時代まで発展している。

 現在、日本では、TPPの参加をめぐって、交渉が進められている。アメリカの世界戦略の一つ、食糧・農業の世界支配の前で、今後の日本の食糧事情が決まる。どれほどお金を積んでも、主食が入らない事態が起こりかねない。こんなはずでなかったと反省しても、後の祭り。誰が責任を負うのだろうか。一方、世界的には、地球温暖化、生物多様性の消失、世界人口の増加など地球環境の悪化が叫ばれ、世界の水・食糧危機、感染症の拡大、テクノロジーの暴走などの近未来の招来が予測されている。今こそこういった危機に、本格的に挑戦することが求められている。21世紀に我々の子孫が“幸せ”に生きるために、差し詰め、「脱成長」「再生可能エネルギー」「共生」「地域」「自律」がキーワードとなろう。

(環境対策委員・山本昭郎)

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