シリーズ 環境問題を考える(117)  PDF

シリーズ 環境問題を考える(117)

環境破壊の「シェールガス革命」

 1990年代以後、ガス採掘技術の革新、天然ガス価格の上昇などにより、従来採掘が難しく、コストが高くつくとされた「シェールガス」(太古に泥土が堆積して固まったシェール(頁岩)層に閉じこめられている、非在来型天然ガスの一種)の本格的な開発がアメリカを中心として起こってきました。石油、石炭、在来の天然ガスに代わるエネルギー源として、また在来型天然ガスの約3倍の埋蔵量、他の化石燃料に比べ燃焼時に発生するCO2などの量が少なく環境への負荷が少ないとされ、シェールガスは一躍注目を浴び、今や「シェールガス革命」と呼ばれるまでになりました。

 再選に成功したオバマ大統領も、エネルギーの輸入と経済停滞に悩むアメリカにとって、これで100年は大丈夫、シェールガスは救いの女神とばかり手放しで採掘を奨励しています。日本でも、2012年10月に、石油資源開発が秋田県の鮎川油ガス田からシェールオイル採掘に成功しました。しかし、いいことずくめで賞賛されたシェールガスにも弱点があります。採掘の際、水で岩を砕く「水圧破砕」工法が、環境破壊や健康被害を引き起こします。

 シェールガスの採掘が環境に与える影響には、(1)掘削廃液・汚泥による汚染(2)地下から出る有毒金属汚染(3)掘削や水圧破砕に用いる薬剤による、地下水、飲料水、表層水の汚染(4)シェールガスとシェールガスに随伴する油分による地下水、飲料水、河川、湖沼の汚染(5)大気汚染(6)水圧破砕による地層構造への刺激=地震を誘発(7)騒音(8)作業者や近隣住民の有毒ガス(ベンゼン、炭化水素ガスなど)吸引などが挙げられます。

 アメリカでは、オノ・ヨーコさんや息子のショーン・レノンさんらのアーティストグループや環境保護運動家、開発反対派団体などが環境破壊の実態や人体への悪影響を告発しています。シェールガスの危険性について、オスカーにノミネートされたドキュメンタリー映画「ガスランド」が映像として告発しています。その一部はNHKのBSドキュメンタリーや「クローズアップ現代」でも取り上げられ、ひねった蛇口から水道水が燃える映像を見られた方もいらっしゃると思います。また、12年10月には、12月28日公開のアメリカの俳優マット・デイモン氏主演の最新作「プロミスト・ランド」に、シェールガス採掘が人体や環境に悪影響を及ぼす描写があるとして、まだ誰も見ていないうちにアメリカエネルギー業界がかみついていました。

 化石燃料の救世主として登場したシェールガスも、地球温暖化を促進する二酸化炭素を排出するばかりでなく、採掘に際しての環境破壊にはすさまじいものがあります。「シェールガス革命」と賞賛される中身は、決して手放しで喜べるものではありません。またまた、人類は次世代に大きな「つけ」を残すことになりました。20世紀は化石由来エネルギーを使った大量生産、大量消費、大量廃棄、環境破壊の時代でした。その反省の上に立ち、21世紀を持続可能な時代にするためには、化石由来エネルギーや原子力を再生可能エネルギーに切り替え、環境保全をはかり、生物多様性を追求することが求められています。

(環境対策委員・山本昭郎)

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