グローバリゼーションと医療(5)/野村 拓  PDF

グローバリゼーションと医療(5)/野村 拓

アンチ・グローバリズムと草の根・社会保障―貧困のグローバル化に対して―

 グローバリゼーションの進行と表裏をなす形で、「世界銀行」はマルクス主義的抽象概念としての「絶対的貧困」とは別に、プラクティカルな目安としてのAbsolute Poverty(絶対的貧困)を「1日1ドル以下の生活」というような形で示すようになった。

 労働力の国際流動、グローバルな階層化を利用しながら、より安くと労働力の買い叩きをやれば、貧困化は拡大する。しかも、グローバリゼーションを進行させる主役に、貧困問題の解決能力がないのだから、当然のことながら、「アンチ・グローバリズム」「カウンター・グローバリズム」の運動がおこる。そこそこの社会保障・社会福祉制度をもつ先進諸国では、あらためて国民国家的機能が問われるし、下地のない国では真っ向大上段の反対論も登場する。

 (図1)は「アンチ・グローバリズム」や「カウンター・グローバリズム」を紹介した本(Aziz Choudry他:Learning from the Ground Up.2010.Palgrave.)だが、髑髏の額にCapitalism=Imperialism=Terrorismと書かれてある。テロリズムは富の偏在と貧困の所産という視点である。


(図1)『闘いはボトムから』という本

 他方、真っ向大上段ではないが、草の根から、できることをという「草の根・社会保障」運動も最近の特徴といえるのではないか。(図2)はそれらを取り上げた本(James Midgley他:Grassroots Social Security in Asia.2013.Routledge.)で、スリランカの「女性生協」、タイの地域福祉基金、インドネシアの「イスラム組合」など、興味をそそる内容が盛り込まれている。


(図2)「草の根・社会保障」運動を紹介した本

 GMとはアメリカの自動車産業のことだと思っていたら、多国籍穀物メジャー、モンサント社の「遺伝子組み換え」(genetically modified)作物の略名として使われているのでびっくりした。草の根まで枯らされないように頑張るしかないだろう。なお、自動車産業のGMの方は1916年にガソリンのアンチノッキング剤として四エチル鉛を加えた加鉛ガソリンを売り出し、タンク清掃業者の鉛中毒から、戦後日本の排気ガス公害にまで影を投げかけた。これもグローバル企業である。

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