グローバリゼーションと医療(1)/野村 拓
地球市民と多国籍企業 ―日本乗っ取り?―
「グローバル」「グローバリゼーション」という言葉はかなり多様に使われている。1978年にWHO・ユニセフの合同会議で、採択された「アルマ・アタ宣言」では「西暦2000年までにすべての人を健康に」が目標として掲げられた。いうなれば、地球市民の健康上の格差是正であり、目標達成のためにプライマリ・ケアの重視と住民参加が強調された。
その後、ソ連のアフガン侵攻や湾岸戦争など戦争つづきのうちに2000年を迎えるが、この年出された本に、翻訳すれば『グローバル借金爆弾』(James L. Clayton:The Global Debt. Bomb.2000.M.E.Sharpe.)となるのがある。
これは各国の借金番付をつくったもので、その東の横綱は日本であった。大企業の利潤獲得のために補助金をつけたり、もうかりそうな国家事業を丸投げしたり、その上、法人税をまけてやったりするから、「横綱」になってしまうのである。国は大企業のために借金を増やし、大企業は多国籍企業化して「もうけ」を海外にかくしているわけである。
要するに、WHO・ユニセフのように「グローバル」に地球市民の格差是正をめざす勢力から「グローバル」な金もうけを政府が尻押しする「アベノミクス」まである。
もし、格差是正をめざす地球市民会議が結成され、その「太平洋部会」でオーストラリアやカナダやニュージーランドの代表から
「アメリカさん、おたくだけ公的健康保険制度がないのはどういうわけ?」
と追及されるのであれば、そのような会議は必要だろう。しかし、建国以来、大西洋をはさんで欧州と向かい合って成長してきたアメリカ企業が多国籍企業化して、「環大西洋」から「環太平洋」へと、市場的蹂躙の矛先を向け、その地ならしとしてTPPが進められつつある。
すでに今から22年前の1991年に『日本乗っ取り』(W.Carl Kester:Japanese Takeovers, 1991.Harvard Bisiness School Press.)と訳すべき本が出され、メルク社が万有製薬を呑みこんだケースが紹介されている。
TPPによって「乗っ取り」意欲が本格化し、その争点が医療と農業であることをまずおさえておくべきである。そして、ほっておけば地球をこわされてしまうことを「地球市民」として自覚しなければならない。
著者紹介
1927年生まれ。大阪大学医学部助教授、国民医療研究所所長、よりよい介護をめざすケアマネジャーの会会長などを歴任。現在、北九州医療・福祉総合研究所所長。著書は、『21世紀の医療政策づくり』『わかりやすい医療経済学』『時代を織る−医療・福祉のストーリーメイク』など多数。