グローバリゼーションと医療 6(最終回)
野村 拓
「緑」と「土」の連合日本からの発信
グローバリゼーションへの対抗軸としての「草の根・社会保障」運動については、前回述べた。途上国中心の「草の根」運動とはやや対照的に、先進諸国では、オランダ中心にグリーン・ケア(緑の癒し)が展開されている。(図1)は訳せば「健康農園−欧米のグリーンケア農園」(Jan Hassink他編:Farming for Health Green-Care Farming Across Europe and the United States of America.2006.Springer.)となる本は22章中7章がオランダに当てられている。干拓によって得た土地、緑、花に対する思い入れが強いからかもしれない。
フランダース(オランダとベルギーの一部)だけで140カ所の「グリーンケア農園」が存在し、精神医療、高齢者医療に貢献しており、「園芸療法士」(Horticultural Therapist)という職種も存在する。
蒔かれた種が土を持ち上げて地上に顔を出すとき、その生命力に高齢者は感動する。そして、生命をそだてる「土」にも愛着を感じる。18世紀半ば、イギリスで「ノーフォーク輪作」という土を大事にする農法がうまれたが、アメリカの大規模経営の低価格に圧倒されてしまう。そして穀物メジャーは土をダメにしながら遺伝子組み換え、パテントかせぎに走っている。
いま、グローバリゼーションは土と「癒しシステム」を破壊しつつあり、途上国も先進諸国もそれなりの対抗策を講じつつあるが、日本には農業と医療とが良い形で結び付いた伝統がある。(図2)は1955年段階で県民100%国保加入を達成した岩手県の記録である。ここには、温度差がありながら、みんなが地域の医療を、そして農林漁業を熱く語った記録が残されている。もう一度原点から、そして、世界への発信も。(完)
(図1)『闘いはボトムから』という本
(図2)岩手県の県民100%国保加入記念の出版物(1955年・岩手縣国民健康保險団体連合会発行)