オンライン請求/義務化が地域医療に及ぼす影響甚大、保険医が裁判官に訴え
(1面からの続き)神奈川訴訟幹事長の入澤氏は、冒頭に医療費請求の仕組みの中で保険医及び保険医療機関には診療報酬請求権があることを説明した上で、請求方法をオンラインに限定し、医療行為とは直接関係のない方法で廃院を強いることは理解に苦しむと指摘。神奈川や京都協会のアンケート結果をはじめ義務化で廃院を余儀なくされる医師たちの悲痛な訴えを紹介し、義務化は保険医にとって死活問題であり、義務化撤回は、地域医療を守りきれるか否かの試金石でもあると述べた。また、内閣府の規制改革会議の主張に合理性がないこと、レセプトデータでは、国の疫学調査には資しないこと。諸外国の実情について、すでにオンライン請求を導入している韓国でも義務化ではなく、紙レセプトでの請求を認めていること。フランスでは個人の医療情報のデータベース化が凍結されたことを挙げ、センシティブ情報である医療情報の取扱いは慎重に慎重を重ねる必要があり、これらの問題も踏まえて保険医が警鐘を鳴らしていることを訴えた。
原告団長の平尾氏は糖尿病専門医の立場から、原告の藤田氏は一人で診療・事務・調剤をこなし、手書きの紙レセプトを提出している立場から、小笠原氏はベテラン歯科医師の立場から、それぞれ義務化の問題点を指摘し、撤回を訴えた。
小賀坂弁護士は冒頭、全国の保険医が提訴したのは、日本の医療を担う者の責任感、使命感からであり、多くの不安や困難を乗り越えて裁判に立ち上がったことを重く受け止めて欲しいと述べた。国の政策にとって全国の医療機関は単なる「客体」としての位置づけでしかなく、医師・歯科医師の専門性を否定していると指摘。医療政策は医療現場の状況を十分に把握し、国民の命と健康をどのように守るのかという基本に立って行う必要がある。しかしオンライン請求の義務化は、こうした基本から乖離しており、直ちに撤回し、医療現場の混乱を最小限にすべきと訴えた。
一方、国側は事前に答弁書を提出したが意見陳述は行わず、議論は行われなかった。国は答弁書で、ほぼ全てに「争う」とし、「オンライン請求の方法に限定されるのは保険医療機関である。原告らが保険医療機関としての地位に基づいて訴えを提起しているかどうか、訴状からは明らかではない。原告ら全員が保険医療機関の指定を受けていることについて主張立証を求める」と、時間稼ぎとも取れる見解を示した。また、小賀坂弁護士の意見陳述中に被告代理人が不規則発言し、小賀坂弁護士が一喝する場面もあった。
政治と司法両面での撤回を、次回口頭弁論は11月4日
報告集会では、原告団弁護団長の田辺幸雄弁護士より今後の裁判の流れや展望等を説明、原告や大阪訴訟原告団の参加者からも裁判への意気込みが述べられた。原告団としては、大阪訴訟と連携しながら今後は早いテンポで裁判を進め、「義務化撤回」の司法判断が得られるまで、“仲間を救う”闘いを続けることをあらためて確認した。
また、民主党を中心とした新たな政権が発足するが、「義務化撤回」は明文化されていない。政治と司法の両面から撤回に向けた活動を行っていきたいとの方向性も示された。さらに現在、全国で取り組んでいる横浜・大阪地裁裁判官宛の要請署名(本紙付録?)も活用し、裁判所内外での運動をさらに広げるとともに、患者の受ける医療にも影響及ぼす、日本の社会保障のあり方を問う大きな問題であることを国民に訴えていくことも確認した。