オンライン問題 現場の声こそが国を動かす力に
義務化撤回に向けさらなる運動を
小賀坂弁護士(神奈川訴訟弁護団事務局長)が講演
オンライン請求義務化に係る省令・告示の改定案が10月10日に示されて1カ月半が経過。厚生労働省は改定案に対するパブリックコメントを募集し、11月上旬に改定としていたが、未だその動きはない。マスコミ報道等で政府要職の発言が伝わってくるが、なお情勢は流動的だ。そのような中、11月15日の保団連審査、指導、監査対策担当者会議では、レセプトオンライン請求義務化撤回神奈川訴訟弁護団事務局長の小賀坂徹弁護士を講師に「レセプトオンライン請求義務化違憲訴訟の現状と課題」を学んだ。概要は以下の通り(文責・保険部会)。
義務化をめぐる政治の混乱
オンライン請求に係る情勢は、1月21日に全国の医師・歯科医師が「オンライン請求義務化は憲法違反」として立ち上がった神奈川訴訟の提訴からこれまで、激しいせめぎ合いが続いている。
8月30日の総選挙で、義務化を“原則化”にあらためるとした民主党政権が誕生したが、10月10日公表の改定案では、義務化は堅持、一部除外規定の拡大に過ぎず、私たちを落胆させた。この改定案では私たちが指摘する問題の本質はまったく解決されない。
神奈川訴訟原告団は、この状況を打破しようと、改定案へのパブリックコメント1万件提出を目指して全国に呼びかけた。一人でも多くの人がこの問題に関心を寄せ、世論を高めることで状況が変えられると考えたからである。11月上旬とされていた省令改定が行われないのは、やはり私たちの声が届いているからと考えてよいだろう。
11月11日の行政刷新会議ワーキンググループの事業仕分けでは、厚生労働省の保険局長が「オンライン化に係る設備投資は医療機関にとって大きな事務低減のメリットはない。にも関わらず国策として、医療費データの分析や審査事務の効率化に協力してもらう。そのために補助金が必要」と複数回にわたって発言。厚生労働省自身が、医療機関にメリットのない政策を、国策の名の下に強制させることを認めている。保険局長の発言からは、厚生労働省は完全義務化の旗を降ろし、10月の改定案の内容は維持できないように読める。全国からのパブリックコメントの提出など、運動の成果はあったと言える。抜本的な方針転換が図れるか、いまが正念場と言えよう。いま情勢は大きく変わってきている。政治の場に医療担当者、患者、市民の声を届けることが重要。この問題がどう帰結するかが、民主党の言う“政治主導”の試金石となろう。
義務化撤回訴訟の状況と展望
義務化撤回訴訟は長期化する恐れもあり、その間は義務化が進むことになる。裁判の判決を待たず政治的に解決することが望ましい。オンライン請求に係る問題をマスコミや世論に訴えることが重要と考え、2千人近い大原告団の結成に至ったが、この提訴により国民の心、そして政治を動かしてきたことは間違いない。
私たちはオンライン請求の義務化は、以下の3点について憲法違反と主張している。(1)医師・歯科医師の保険診療を行う権利侵害(憲法22条、25条、13条)、(2)法律による行政の原理違反(憲法41条)、(3)プライバシーをめぐる問題(憲法13条)。
改定案で示された除外規定の拡大では、私たちが問題としている憲法上の問題は解決せず、解決には義務化撤回しかない。口頭弁論で被告(国)は「義務化になっていない医療機関は原告対象ではない」と入口論に終始し、稚拙な議論を繰り返しているが、本末転倒である。私たちはオンライン請求の効用ではなく、憲法論を述べているのであり、国の主張と噛み合っていない。国は憲法論(法律論)をまったく展開していないが、それは反論しようがないからだ。
国は私たち原告側の真摯な訴えに応えられていない。論戦上は原告が圧倒している。これは被告(国)や先日の厚生労働省の保険局長の発言からも明らかで、裁判を中心とした運動が功を奏している。決して楽観できる状況にはないが、さらに運動を強めていけば展望は開けるだろう。