わたしのすすめる短歌
呼吸(いき)すれば、胸の中(うち)にて鳴る音(おと)あり。
凩(こがらし)よりもさびしきその音! 石川啄木
詩歌史上最高峰の一つ 鮮烈な印象の啄木代表作
韻律の名歌三十六首選(近代歌人一人一首)でこれを読み、感動した。(来嶋靖生著、『短歌の技法―韻律・リズム』飯塚書店)。
手軽さゆえに愛用している文庫本(現代名歌選(久保田正文編、新潮社)、現代の短歌(高野公彦編、講談社)にこの歌はなく、久しぶりに出会ったせいもあろう。
わたしも古希を越え、さまざまの人生経験を重ね、多くの詩歌に接し、それらの技法について考えてきた上で再会したので、印象は鮮烈だった。
内容に技巧が相まって、すばらしい作品となっている。上の句で準備された調べが、下の句の初めに最高潮に達し、徐々に減衰していって終わる。日本語で書かれた短歌形式の最上級の作品となっている。
発刊を託された土岐哀果が、遣品の紙片から発見して、歌集「悲しき玩具」の巻頭に置いたと言う(『三省堂名歌名句辞典』佐々木幸綱、復本一郎編、三省堂)。
この歌は啄木の代表作であるばかりでなく、近代短歌、いや日本詩歌史上最高峰の一つと言っても、過言ではなかろう。
(相楽・門林岩雄)
(1)『短歌の技法―韻律・リズム』来嶋靖生著、飯塚書店
(2)『三省堂名歌名句辞典』佐々木幸綱、復本一郎編、三省堂
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