みんなの党はなぜ伸びた?―新党論
7月11日、参議院選挙がおこなわれました。その結果は4つの特徴にまとめられます。
第1、民主党が大敗し、得票率でも大きく減少しました。ではその票は自民党に行ったかというと、自民党には戻りませんでした。自民党もわずかですが、前年総選挙の得票率をさらに落としました。その結果、保守二大政党の得票寡占率は下がりました。これが第2の特徴です。私は小選挙区制の定着による保守二大政党の得票寡占率を「7割のお風呂」と名付けてきました。この10年、自民党と民主党の間で票は行ったり来たりしていますが、自民と民主を足すと、ほぼ7割で安定してきたからです。政治を変えるには、この「7割のお風呂」を壊すことが重要だと言い続けてきましたが、今回民主党が減ったのに、自民党への揺り戻しもなかったから、保守二大政党の得票寡占率は減少し、55.6%に落ち込みました。国民は明らかに前に進んだのです。
では、民主党から離れた票は、7割のお風呂に対抗する反構造改革、反軍事大国のお風呂へ移ったかというと、そうはなりませんでした。社民党も共産党も、その受け皿にはならず、それどころか、得票・議席ともに減らしたのです。これが第3の特徴です。では民主、自民から離れた票はどこへ行ったのでしょうか。みんなの党をはじめとする新党がそれを吸収したというのが第4の特徴です。
そこで今回は、この新党に焦点を合わせて、今回の選挙の結果に光をあててみましょう。
新党の主力であるみんなの党の票の出方を見てみると、みんなの党の躍進は、東京をはじめとする大都市圏での得票の著増であるといえます。比例区におけるみんなの党の全国得票率平均は13.6%ですが、埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫は軒並み全国平均を大きく上回っています。注目すべきことは、みんなの党は大都市圏での民主党の減少分をほぼ吸収しているとみられることです。
東京をみてみましょう。民主党は31.5%、前回総選挙から9.5ポイント落としました。自民党も20.7%、4.8ポイント落としましたが、みんなの党は、9.1ポイント増やして15.2%獲得し、新党改革、立ちあがれ日本がそれぞれ2.3%、2.5%獲得しました。大雑把に言えば、民主党の減少分がそっくりみんなの党に、自民党の減少分がそっくり新党改革、立ち上がれ日本に行ったと見てとれます。その結果、保守二大政党得票寡占率は下がったのですが、保守全体の得票率は、なんと09衆院選とぴったり
同じ75.9%で維持されたのです。
みんなの党はなぜ伸びたのでしょうか。みんなの党への得票増をもたらした第1は、民主党支持者であった大都市の大企業中間管理職層、ホワイトカラー層を吸収したことです。
もともと、昨年の民主党大勝は、2つの異なる層と期待が合流した結果でした。1つは言うまでもなく、自公の推し進めた構造改革に怒ってそれを止めてほしいと期待した層で、都市部の勤労者、高齢者などと地方の住民がその主力でした。しかしここで注目したいのは、もう1つの層、つまり民主党に急進的な構造改革、官僚主導の開発型政治からの脱却を求めた大都市中間層です。この大都市中間層は、鳩山政権の福祉財政出動、消費税引き上げに対する消極姿勢などに幻滅して、鳩山政権から離れ支持率低下を促進しました。このグループは、代わった菅政権が、消費税率アップ、法人税引き下げなど、構造改革路線への復帰を表明したことで、かなり民主党に戻りましたが、それでも戻りきらなかった部分が相当あり、これがみんなの党に行ったと考えられます。みんなの党の「公務員リストラ」「地域主権改革」など、小泉政権同様の急進構造改革主張がこの層に受けたのです。大都市圏のみんなの党の躍進のかなりの部分は、こうした民主党の右からの支持者からなっています。
みんなの党の得票増の第2は、民主党に反構造改革を期待した層が、民主に絶望して流れ込んだ部分です。前回総選挙では、地方でも都市部でも、自民党の構造改革に嫌気のさした部分が民主党に大挙流れました。ところが鳩山政権がジグザグをくり返しただけでなく、菅政権はなんと消費税増税を打ちだした。これに対する不信が民主党離れを生みました。とくに、女性層では消費税反対が強く、それと今回の参院選での女性票の民主党離れが重なっています。
ここで問題なのは、こうした民主党離れ層が、消費税に一貫して反対していた共産党や社民党に行っていない点です。これはまた独自に分析しなければなりませんが、さしあたり結論だけを示唆しておきます。「たしかに消費税引き上げはいやだ。しかし、かといって共産党の言うように、軍事費を削って、安保体制が揺らいで日本の安全は守れるのか。消費税を上げないで、大企業に負担を課して、企業は外国に逃げていかないか」。日本の選択肢をめぐるこうした国民の揺れに、みんなの党が食い込みました。いつか消費税は上げるが、まだその前にやることがある。それは公務員リストラ、社会保障費削減というとんでもない方策ですが、それに期待する層がみんなの党に流れたのです。
こう見てくると、みんなの党はじめ、新党の躍進の意味がわかります。1つは、この間の政権交代、政治経験を経て明らかに保守二大政党の地盤沈下が始まったことです。7割のお風呂の揺らぎが現れました。しかし第2に、その不信層は、未だ、共産党や社民党のお風呂には行けない。それを新党が吸収し、保守のお風呂を壊さないという役割をもちました。その意味では新党ブームはあくまで過渡的現象です。
今度の参院選でがっかりした読者も少なくないと思います。普天間で裏切り、構造改革路線へ復帰し、消費税増税まで掲げた菅民主党が敗北したことはよいことだったが、どうして共産党や社民党は小さくなってしまい、よりによって新党などが伸びたのかという失望・落胆です。しかし、国民はばかではありません。直線で進むわけではありませんが、ジグザグをくり返しながら確実に学んでいます。自民党から民主党へ、さらにみんなの党へ、その中には明らかに、政治を前に進める期待が込められていることを見逃してはなりません。 (7月28日記)
クレスコ編集委員会・全日本教職員組合編集
月刊『クレスコ』9月号より転載(大月書店発行)